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僕と畑野は驚いて村田を見た。
「え、なんで!」
「いや、こういうのって本人と話さないとわかんないし。LINEの返事ないなら、会いにいくしかなくない? もし鈴宮さんもそのことで悩んでるんだとしたら、話せば畑野さんとちゃんと仲直りもできると思うし」
平然とそう言ってのける村田を僕は唖然と見ていた。
令和のこの時代で、直接会いに行こう、なんて台詞、ちょっとクサくて僕にはいえない。というか頭に浮かばない。
高校3年間、ずっとコロナだソーシャルディスタンスだと言われてきたから、スマホ上で何でも解決してきた。困ったら、ある程度のワードを入れて検索するとSNSやYouTubeでどっかの誰かが解決策を教えてくれたし、LINEが繋がらなくなるってことは、もう連絡を取れないってことだ。返事を止めてる方が連絡しようと思わない限り、関係の継続は難しいんじゃないかと思う。現に今もそう思っている。
鈴宮が学校を休んだことは気がかりだけど、復活する意思もそのタイミングも鈴宮次第だ。僕らが無理やりこじ開けたり励ましたりするもんじゃない、きっと。
第一、こんな急に行っていいかすら確認も取れないのに、直接会いにいくなんてどうかしている。鈴宮にとっても迷惑なはずだ。
村田が予想外に熱い男だったことに驚くと同時に、この熱血くんを止めないと、という焦りから
「いや、それはあまりにも急すぎるしもう遅いしやめとこう。な、畑野」
と言って畑野を見た。畑野も堅実派だから流石に断るだろう。
「村田くん」
さっきまでの弱々しさは、たこ焼きで払拭されたのだろうか。
畑野はいつものきりりとした眉毛とまっすぐな眼差しで村田をじっと見つめている。
「ありがとう、そうだよね。LINEだけだと何にも分かんないよね。私ももう一度ちゃんと謝りたいし、涼華と話したい」
ええ! 畑野、君はそんなキャラじゃないだろう。僕は変な汗をかいてしまった。もしかして僕だけか? 反対しているのは……。
「私、涼華の家行ってみる。何回か行ったことあるし、お母さんにも会ったことあるし」
そう言うと、何がか吹っ切れたように畑野は立ち上がって、ありがとう! じゃあ行ってみる! と店を出て行こうとした。
「待って、畑野さん。僕たちもいくよ。この時間でもう暗いから畑野さん1人に行かせるのも心配だし、僕らも鈴宮さんのこと気になるからさ」
村田が畑野を呼び止める。そう? ありがとう、正直心強い。畑野はそう言って笑いながら、マフラーをしっかりと巻き直している。
「陽介ももちろん行くでしょ?」
立ち上がった村田が、まだ椅子に腰掛けていた僕を見下ろして言った。
2人がそう言うなら、ここまできたら行くしかない。
僕らにできることは何もないんじゃないかと思う。むしろ何もしない方が、もし僕らの考えと違って鈴宮が本当にただの風邪だった時に恥もかかずに済むし、相手にとって「余計なこと」にならずに済む。
でも、この2人が言うなら、何か違う結果が待ってたりするのかもしれない。
「うん、僕も行くよ」
気持ちを決めて、席を立ち上がった。僕らはごちそうさまでしたー! とお店の人に声をかけて、店を出る。
「涼華の家、確か学校から数駅だったから電車にさえ乗っちゃえばすぐ行けるはず」
2人とも付いてきて、と語るような畑野の背中を見ながら、僕らは人の流れに逆らいながら足早に商店街を駆けて駅を目指す。
息が上がる3人の白い吐息が、冷たい空気に冷やされてくっきりと見える。
食べた後、マスクをするのを忘れていた。吐いた息は、宙に現れたと思ったら流れて消えてそれを繰り返す。
3年の夏の県大会。鈴宮はどんな気持ちで走ったんだろう。もしあれが冬なら、鈴宮の吐いた息もこんな風に綺麗に凍って流れていくのが見えたのかな。
走るうちに、僕は無性に鈴宮に会いたくなった。
僕らの吐き出した白い息は、賑やかに光る商店街に消えていく。
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