寧推の日常

8/8
前へ
/22ページ
次へ
 …嗚呼、偉鳥という人間は、私とは噛み合わないのか。  いい人だと信じていたしいい人だと思って今まで見てきたけど、それはすべてマヤカしだったか。  何処か可笑(おか)しくて、笑いが込み上げてきた。  これは後から思ったことだが、人間、本気で怒れたり落胆したり、悔しかったり悲しかったりするときは、笑いが込み上げてくる仕組みなのだろう。  はははっはははははははっ  笑いが止まらなくなったら、今度は涙まで出てきた。  「…泣いてんの?」  何処かヒンヤリとしていて、前までは好きだった、毒を帯びた偉鳥の声が電話越しに耳元でした。  「…うん。泣いてる」  「僕が、寧推に対して毒吐いたから?」  …なんか、この人と喋るって、疲れるな。早く、電話切りたいんだけど。  ぷつんと私の中でなにかが切れる音がしたのは、偉鳥に対しての、”好き”という気持ちが切れた音だったのか。  「それもあるけど、何かなんでお前なんか好きになったんだろって思ったら、笑いが止まらなくって。はははははっははははははははははははっ」  「寧推が付き合いたての頃、毒は時に地上最高の神秘の美しい液になり、時に地上最悪の存在となるねって言ってたけど…ほんと、その通りだったな」  もうこいつの言うことなんてどうでもいい。そう思ったら、言葉が耳に全然入ってこなくなった。  「ははははは…っ。さよなら。お前とはもう喋りたくなくなったわ。別れよー偉鳥くーん。カレカノも友達も全部やめよーもう。それじゃ、サヨナラ」  そう言って、電話を切った。  とても清々した、悲しくも有り、楽しくも有り、憤りたくも有る、不思議な感情にかられた。  …サヨナラ、同担のトモダチだと思っていた人間たち。  もうトモダチだとは、思わないからね。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加