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「ふぅ…間に合った…」
息も絶え絶えになった私は、美術室の空いていた席に腰掛け、ほっとした。
…美術の先生、遅刻に超厳しいんだよなぁ…。ホント、時間に間に合って良かった…。
…てか、美術の先生の名前ってなんだっけ?…漢字三文字、だったのは覚えてるんだけどなぁ…。漢数字が入ってたような、入ってなかったような…?
そんなことを考えていると、美術の先生がいつの間にか、教卓の前に立っていた。
「起立。礼」
「「「お願いします」」」
野太い大きな声で先生が言った。
「さて、今日は、予告通りデッサンのテストを行います。前回伝えたどおりテーマは『身近なモノ』。一時間という短い時間で仕上げてください。上手い作品は、日本学生美術コンクールに出展するでね、気合い入れて描いて下さい」
先生が、B3ケント紙を一人ひとりに配る。
画用紙を貰うと、私は、ペンケースを手に取ると、机の上に中身をぶち撒ける。
その散らばった文房具の中から、6Bの鉛筆を手に取ると、画用紙に私の座っている席の机の状態を描いてゆく。
カッカッカッカッ…サササっ…
「動きがある作品で良いですねえ」
「ぅおッ!?」
私の知らぬ間に、美術の先生が横に立っていた。
私は慌てて手を動かすのを止めて、ありがとうございます、と口にする。
「あ、ありがとうございます…」
「ほー。筆箱の中身机にぶち撒けたと。理由聞いても良かと?」
美術の先生が何処の方便だかわからない言い回しで聞いてきた。
「あー…何か、皆と題材被るの嫌だなって思って。それで、これなら被らないかなーと…」
「なるほど。それでなんですねえ。…おねえさん、美術部でしたっけ」
あれ?私、美術部の部員と間違えられてる?ってことは、結構上手くデッサンが描けてる、って受け取って良いのかな?
…いやいや。流石にそれは無いか。
「いえ…。パソコン部、です」
「そう。パソコン部なんね。あ、いやね、この作品上手く掛けてるから、今度のデッサンの大会に出そうと思ってさ」
…え?!美術の成績は小学生時代は三段階評価中二、中学生時代は五段階評価中二、去年は十段階評価中四、という中くらいか中の下といった成績の私がデッサンの大会に作品を出そうかしらと言われてる?!…そんな私の作品出したがるとか、この先生、見る目無いのかな…?
「え、なんで私の作品を?私よりデッサン上手い人なんて、このクラスにもこの学年にも…沢山いますよね。なんで、私のこの駄作なんですか?」
思わず私は聞いてみた。
「なんか、最近の絵が"上手"だと称賛されている人って、皆、題材がおんなじような感じで、ハッキリ言って見る側からしてみるとつまらないんですよ。同じような作品ばかり集まるから。まぁ、それを求めてしまって題材を決めつけたりしている主催側もあれなんだけどさ」
「は、はぁ…」
「で、そんな中、ショウキヤさんの作品は、凄いアイディアが斬新で良いなぁと思ってさ。規律とか周りとか気にしずに、自分の良いと思ったことを貫いて手を動かしてるって感じでさ。だから、何か、この小さな"世界"に刺激をきたしてくれるかな、と思って」
「刺激…」
「ってことで、この作品、出来上がったら出させてね、日本学生美術コンクールデッサン部門高校生の部」
に、日本学生美術コンクールデッサン部門高校生の部!?それに、私の作品が、出されるの!?まぁじでっすかぁい!
「はぁ…嗚呼、別に良いですけど…。あの、私の名前は、勝木屋って書いて"ショウキヤ"じゃなくて『かつきや』って読み、ます」
「嗚呼そーなの。ごめんよ、読み間違えて。…そいじゃ、そういうことで」
そう言うと美術の先生は、他の子の作品を見に行った。
まじか‼私の作品が、美術の成績のいい子たちが目をギンギラ輝かして必死に上位の賞を狙って描いているあの日本学生美術コンクールに、私の作品が出されるのか‼…それって、凄くない??
そう思い、美術の先生と喋っていた時間の分取り返そうと思い、鉛筆を動かすスピードを早めた。
キーンコーンカーンコーン…キーンコーンカーンコーン…
授業終了のチャイムがなる。
「作品は、机に置いたままにしといてください。こっちで回収するのでね」
「起立」
「「「ありがとうございました」」」
クラスメイトたちは、美術室を出て教室へと戻っていく。
私は、偉鳥の背中を追いかける。
「いーと‼一緒に教室戻ろ〜」
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