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そう言って、顔を洗ってこようと洗面所へと向かおうとすると、
ゴトッ
と、ナニかが落ちるような音が私のベッドの方からする。
それは、『本』、だった。
私の愛読書、麻野アサ先生の「推し燃えたんで、とりま学校休みます。【六】」。
主人公、現役高校生の|麻宮浅香の推しが炎上してしまい、そのことに病んでしまい、引きこもりになってしまうというストーリーだ。
推しを炎上させた”ガセネタ"をSNSに上げた奴を警察に突き出し、そいつを絶望の呑底に突き落としてやろうと奮闘する浅香の復讐劇でも有り、浅香と浅香の推し、風人との濃密なラヴストーリーでもあるという世界観に、私は虜になっていた。
「まぁた、麻野アサのくだらない小説読んでたの?」
「…」
「寧推。あんたの志望校、K大だろ?そんなくっだらない本ばっか読んでたら、あんた普通に浪人するぞ。推しだかなんだか知らないけど、そんなの推したりする暇あったらもっと勉強しろってんだろ。とにかく、そんなくだらない本読む暇あったら、もっと勉強しろ」
私は、かっちーん、ときた。推しを馬鹿にされるのだけは何があっても許せない。
「…っお母さん‼何が、くだらない、だぁ?麻野アサ先生は、まじで凄いんだよ。史上最年少で、「推し燃え」シリーズで本屋大賞受賞取ったし。「推し燃え」シリーズは、小説界では異例の累計五百万部突破の大大大ヒットだし。それに、私の推し様、浮城勝󠄁摩様やて、超偉いし頭良いしとにかく凄い人だし。とにかく、私の推し様を馬鹿にする人は、何人たりとも許さない‼」
頭に血が上った私は、そう言い終わるとベッドの横にあった椅子を掴み、母に向かって思いっ切りなげつけた。
ガンッ
っと物凄い音が、した。
見ると、母は尻餅をついていた。
痛そうに顔を顰めた後、
「あたしに口答えしたいんだったら、せめて、くだらない内容の小説読む時間削ってさっさと寝て、朝、あたしに起こされなくとも起きれるようになってから口答えはするんだね_」
と言って、私の部屋を出ていった。
ばたん、とドアが閉まる音で、私は冷静さを取り戻した。
…ちょっと悪いことしちゃったかな。お母さん、ごめんなさい。
…いやいや‼やっぱし、推しを侮辱されるのだけは、絶対許せないんだよなぁ_。
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