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2.絵を描く少女
「何やってるの?」
母のヒステリックな声が子供部屋に響いた。
しまったと思った時にはもう遅い。私は白紙のノートを取り上げられてしまう。
今の時代、絵を描くための画材は売られていない。多くはAIの絵画を生成するのに適した紙とインクだけだ。油彩、水彩、デッサン調など本物の画材そっくりに印刷されるから凄い。
もはや絵を描くための画材も必要としない時代となっていた。
「絵を描くなんて……やめなさい!恥ずかしい」
「……ごめんなさい」
私は掠れた声で謝る。
「絵なんて描いてどうするの!そんなことより勉強しなさい」
世間の言葉を代表しているかのような母の言動に私はうんざりする。
母の言葉は正しい。
AI芸術が認められた現代。人が生み出す芸術の価値が低くなっていた。最近はAIの作品しか展示していない美術館も多い。
世界中でもAIの作品を評価する権力者が多いのだ。世界の流れはAI芸術に流れていた。
「やるならAIで絵を作りなさいよ。いい加減現実を見なさい!」
AIがあればだれでも芸術家になれる時代。日夜様々な作品が数秒で生み出され、収拾がつかない事態になっている。
しかもそのどれもが完璧で美しい作品なのだ。
とても人の描いた絵が太刀打ちできるような世界ではなくなっていた。
「分かった……」
本当の気持ちとは裏腹に調子のいい返事をする。弱い自分が本当に嫌になってしまう。
SNS上に上げられた美しい絵の数々。私は唇を噛み締めてそれらを眺めた。
私が対象を考え、構図を考え、下書きをし色を付ける間にAIは一瞬で作品を完成させてしまう。何なら私が1作品完成させる間に何作品も完成させているはずだ。
それってなんだか……とってもずるい。
しかもAIは人の作品を参考にして絵を抽出しているというから尚更ずるく思えるのだ。
時代遅れで、頭の固い人の意見だと思われるかもしれないけど「ずるい」という言葉がしっくりくる。
そう、ずるいんだよ。AIっていうだけで自由に絵を描くことがきるんだから。
私の生きている現代ではAI芸術が世界で大きく認められている。その代わり、人の芸術家は重宝されなかった。権利もAI芸術家ほどしっかりしてはいない。
この時代にどれだけ人間のアーティストが消えていったんだろう。
AIを使わず絵を描いているというだけで白い目をされる。変わった人だと思われ、時間の無駄だと言われる。
需要がないと、コスパが悪いと作品に見向きもされない。
いつの間にか人が絵を描くのを許されない世界になっていた。私の生きている時代はそういう時代なのだ。
『絵なんて描いてどうするの?AIの方が上手いじゃん』
……そんなの分かってる。
『人が絵を描くなんて時代遅れだよ』
そんなの分かってるんだよ!
じゃあ、なんで……人は絵を描くの?
その問に対する答えはまだ分からない。それがまた悔しくて、私は涙目になりながら握りこぶしを作る。
部屋を飛び出し、何も考えずに外へ飛び出した。
辿り着いたのは、1週間後には取り壊されるという廃ビルだ。その近くには改装工事中の小さなお店がある。地面に白と黒のペンキが置かれているのが目に入った。
描かせてよ!私にも……私にも絵を描かせて!
そんなことを思いながら、私はペンキと刷毛を手に取って巨大なキャンパスに向き合った。
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