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1.壁の絵を見る少年
これは……何だろう。
取り壊しが決まったビルの壁。空に向かって両手を広げた女の子の後ろ姿がモノクロで描かれている。
それが『絵』であることは分かるのだけれど、何か違和感を感じた。ぼくが今まで見てきた『絵』と言われるものとは大きく異なっていたからだ。
はっきり言ってしまえばその絵は完璧じゃなかった。美しいと言える色彩もないし、線も不規則だ。
なのにぼくはその絵に強く引き付けられた。
「こら!そんなもの見ないの」
慌ててお母さんがぼくの手を引く。
「AI芸術の時代にまだ絵を描き続けるなんて……。子供に悪い影響を与えたらどうするんだか……」
お母さんが何かぶつぶつと呟いているけど、ぼくはまだあの絵のことを忘れられない。
この気持ちは何だろう?
ぼくはふわふわした心地のまま、お母さんの手に引かれながらスクールに向かう。
この日、初めてぼくは人が描いた絵を目にしたのだ。
昔はスクールの授業でも子供が絵を描く時間があったらしい。とても信じられないけど。
そして、絵を描いたことのないぼくは疑問に思った。
何故、人は絵を描くんだろう。
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