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燃える玉鋼は、少し心臓に似ていると思う。 頬に冷たい欠片が当たった。 見上げればちらほらと白い雪が舞っている。 朝から空が暗いと思っていたが、どうりでだ。 「ちょっと師匠!とっとと歩いてください」 力強く腰を叩いてきた弟子は、軽やかな足取りで2、3歩飛び出し、くるりと回れ右をする。 寒いのに子供は元気なものだ。 青太郎はやれやれと歩き出す。 「分かった。分かったよ」 「もう!本当にもっとしゃきっとしてくださいよ!」 「しかし本当か?山に白火が見えたというのは」 「本当ですよっ」 弟子は心外だとばかりに鼻を鳴らす。 「僕は師匠と違って、しゃきしゃき生きてますから」 「おい。それは俺がぼんやりだらだらしているという意味か」 「当たりです」 青太郎は弟子の頭に拳骨を落とす。 「いってぇ!」 「お前と違って、考えることが多いんだよ。その分稼働が遅えの」 「手だけは早え」 未だぴいぴいと囀ずる弟子を置いて、青太郎は歩き出した。 向かうは集落を囲むようにして広がる、鎮守の森である。 鎮守の森は昔から禍者が出る。 それは人の形をしていたり、獣の形をしていたりと様々だが、一様に人に害を成す。
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