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弟子も一緒になってきょろきょろする。
と。
「師匠」
あれなんでしょう、と弟子が社の奥を指さした。
青太郎は屈んで弟子と目線を合わせる。
弟子は青太郎の横顔を一瞥すると、今度は力いっぱい腕を伸ばした。
「あれです!」
青太郎は目を凝らしーー次の瞬間文字通り息が止まった。
誰かが倒れている。
すらりと長い足が、張り出た木の根に混じり、投げ出されていた。
「やられたか!」
青太郎は走り寄った。
師匠、と泣きそうな弟子の声がする。
「ここにいろ!」
そうは言ったものの、なんとなく手遅れな気がした。
生きている人間のものではないと、本能的な部分が叫んでいた。
それでも勇気を振り絞って近づいた青太郎は、更に息を飲むことになる。
まず、足は女のものだった。
巨木に背を預けたその女は、上半身が血だらけだった。
特に酷いのは腹である。
深い色をした血が、未だどろどろと流れている。
辛うじてまだ息はあった。
しかしその目は虚ろで、この世ではないどこかへと、ほとんど拐かされているような状態だった。
「おい」
一応声をかけてはみたが、やはり返事はない。
そのかわり、虚ろな目がぐらりと青太郎に向いた。
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