美しかった妻を求めて

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 K博士は水と油と言いたい位、今時の輩と溶け合えない。例えば大谷、打っては四番(二番三番の時もあるが)、投げてもエースピッチャー、曾ての高校野球チームではエースで4番というのは珍しくなかったが、それをDH制(ベーブ・ルースの時代にはなかった。あれば二刀流を続けられたかもしれない)の恩恵に与ることによってメジャーで遣って退け、而も打者部門でも投手部門でもタイトルを獲る勢い、信じがたいことに日本人選手がメジャーの頂点に立とうとしている…正に夢のようで野球選手として彼は規格外、常識外れ、日本人離れした体格、桁外れのパワー、度外れたアッパースイング、どれも前代未聞、空前絶後、従ってまるで予測出来ない、異星人、化け物、怪物、最早、人間じゃない、兎に角スゴすぎるんだが、ホームランを打った時、三振を奪った時などに露骨に喜びの表現をする、あれがK博士の気に食わないところだ。一昔前までメジャーには相手に失礼だ、相手の気分を害するとして敢えて喜びを表さない、つまり相手選手を思いやる野球道みたいなものがあったが、メジャーもすっかり劣化して喜びのパフォーマンスを派手にやるようになり、大谷も何の抵抗もなくやっている訳だ。そしてどうも報復を受けている様子はないようだからメジャーの選手も大人しくなったものだ。それともファンサービスの一環としてやっているという不文律が選手間に生まれたのだろうか?だとしてもK博士の気に食わない。あんなパフォーマンスで喜ぶようなガキ(精神年齢が低い大人或いは青少年)相手の商売なのか、玄人相手の商売をしろ!ホームランを打とうが三振を奪おうがさりげない態度を取る、それが大人ってもんじゃないか、イッツクールってもんじゃないか、もし、大谷がそうするなら偉いと思って応援するんだが、とK博士は思うのだ。それだけに全く以てガキ相手のファンサービスに特化しているような日本のプロ野球には全然馴染めなくなって目もくれなくなった。  大谷は偶に見るが、報復のデッドボールもなければ厳しい内角攻めが出来るコントロールの良い、ピッチングの巧い、ピッチャーもいないからあんな野球漫画にもない、野球漫画以上に漫画チックな活躍が出来るんじゃないか、とさえK博士は思うのだ。そしてその漫画に夢中になる国民は、同時に3S政策(GHQから日本政府が継承している)によって骨抜きにされているのだ。  また、物価が高騰し実質賃金が下がり続け中小企業が疲弊しているのにインボイス制度を導入し、増税する、それも何のクソの役にも立たないどころか国民を貧窮に追い込み国を破滅に導きかねない防衛費倍増の為に…ところが国民は怒りを露わにしない。大半が俺とは違って台湾有事は日本有事であり日米同盟の有事でもあると言った安倍に煽られたまま、台湾有事は有り得ると思い込み中国を驚異に感じているから防衛費倍増は已む無しと思っているし、一応上がっている名目賃金だけ見ているからだろうか、というより皆、やはり骨なしだからだろうなあ。実際、俺みたいな良く言えば気骨のある悪く言えば頑固な者がいないじゃないか、どいつもこいつも時代の変化や流行に流されっ放しで、あっちへふわふわこっちへふわふわするクラゲみたいな奴ばかりじゃないか、ま、その方が世渡りし易いんだろうが、世の中に合わせるばかりじゃねえ…とK博士は思うのだ。  それに2010年頃を最後に好みの女が全然、見つからなくなったK博士は、最近の流行り顔が殊に気に食わない。何と言うか、人間味のない無機質な印象を受け、のっぺりとしていて締まりがなくて目が大きすぎて顎がとんがりすぎて出っ歯でアヒル口で、極端に言えば、想像上の火星人みたいでとてもじゃないが馴染めないのだ。  K博士はアイドル全盛時代の80年代に青春期を送っただけに面食いで昭和が良かったなあと懐古しがちだから80年代アイドル顔負けのルックスを持ちスタイル抜群で長年美しさを保ち続けた妻を一途に愛し続けた。最近までは…と言うのは流石に50を過ぎて全身に亘って衰えが目に付くようになったのだ。  しかし、件の通り最近の女に馴染めないから目移りすることはないし、浮気なぞしないが、女以外に浮気するべく研究開発に取り掛かった。それは秘密裏に研究所の地下室で行われ、そこから退室する時も鍵をかけるから妻にばれる気遣いはない。  美に於ける妻の全盛期の写真を基にコンピューターグラフィックで、それを再現してより女性らしくなるよう人工知能を与えて実現化する、つまりAIロボットで…完成はいつになることやら…その道のりは無論、平坦ではないが、K博士ならきっとやってのけることだろう。
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