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「う、うああっ」
急所を一突きで刺し貫き、吹き出した赤い血を浴びる。そうして悲願を達成するはずだったタケルは、反対にうつ伏せに抑え込まれ、混乱していた。
何がどうなっているのか分からない。持っていた小刀は遠くに飛ばされて目の届かない暗がりに消えた。
タケルは先ほどまで久我が寝そべっていた畳の上に押しつぶされ、右腕は後背にねじ上げられ、こらえきれずみっともないうめき声を上げた。
「とんだ跳ねっ返りだな。なぜ俺を狙う」
並外れて身軽ですばしっこい自分がこうも簡単に絡め取られたことが信じられなかった。しかも正体無く眠り込んでいたはずの男にだ。
「物取りの類いというわけでもなさそうだ。昼間に顔を合わせた時から、俺に対する殺気が尋常じゃなかった」
膝で腰を押さえつけられ、腕もがっちり取られて、まるで抜け出せない。タケルは焦り、恐れ、この男から離れたくてめちゃくちゃに暴れたが、余計に動きを封じ込まれるだけだった。
「試しに寝たふりをしてみたら、まんまとひっかかりやがった」
「は、離せ!」
「おまえは誰だ。俺になんの恨みがある」
「離せよ、この、馬鹿力」
身体をよじり、思うさま背後の久我を横目で睨み付けると、愉快そうに口の端を歪めて笑った。
「ふうん、ま、いいか」
獲物を映す酷薄な眼差しが、タケルを睥睨する。まるで狼が舌なめずりをするような笑みに、背筋を冷や汗が伝った。
「夜はまだ長いしな。ゆっくり聞いてやる」
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