タケル 1

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 気を失うほどに殴られるか、刃物で傷を負わされるかと覚悟し身構えれば、後ろ手に絡め取られていた腕をきつく縛られた。それまで自分を押さえつけていた大きな身体が離れたので、その隙に起き上がろうとしたところ、いつ手にしたのか刀の鞘で向こう臑をしたたか打たれて再び転がされた。  体勢を立て直す間も与えられず、すぐにぎゅうぎゅうと背面から押さえ込まれ、顎を反らされて酒のようなものを呑まされた。顔を背け、一旦は吐き出し退けたが、すぐに顎を掴まれ流し込まれる。  乱暴に下顎を揺すられて、はずみで嚥下してしまい、慌てて嘔吐(えず)こうとしたが今度こそ阻まれた。 「いい子だからおとなしくしな」 「ガキ扱いするな」 「なに、おおかた十五、六ってとこだろう」  思わず頭に血が上る。 「なりが小さいからって、馬鹿にするんじゃねえ。これでも十九なんだよ」 「そうか、そうか」  久我はにたりと笑い、機嫌の良い笑い声を立てた。 「なるほどな。おまえ(さる)の年の生まれか」 「何がなるほどだ、猿みたいって言いてえのか」 「きーきーうるせえなあ」  腹立ち紛れに脚をばたつかせ、せめて一蹴りでもお見舞いしようとしたが、異変を感じた。 (……あ、あれ?)  身体に力が入らない。  後ろへ蹴り上げたはずの脚が、意に沿わずぱたんと倒れた。  恐ろしいのは、倒れた衝撃が身体を伝い、表面にさざ波を立てたことだった。 (なんだ、これ)  ざわざわする感触に鳥肌が立つ。たとえて言うなら発熱しているときの、神経が過敏になっている状態に似ていた。ただ着物がこすれるだけで、不快な気持ちになる。  さきほど無理に飲まされた、何かのせいだ。 「酒、じゃない、だろ」  息が上がる。声を発することで、身体の奥に火がついてしまう。  これまで酒でこんな風になったことはない。 「酒でなけりゃ」  久我が背中から覆い被さってくる。その重みで息が漏れ、得体の知れない感覚に支配された。はね除けたいのに適わない。口惜しさに目がくらみそうになる。 「……なんだと思う?」  耳元で囁かれ、耳朶がしびれる。気を抜くと吐息に嬌声が混ざりそうで、必死に奥歯を噛みしめた。
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