沢山の嘘と一つの真実

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〔北海道の渡り鳥 私イジメられてて、教科書ビリビリで無いに等しいんだ!だからいつも空を眺めてた。〕 【僕と同じだ。あの日以来、空しか見られない。】 〔九州の狼 何所迄歩くの?〕 〔北海道の渡り鳥 気の向くまま💧〕 〔九州の狼 気を付けてね。〕 〔北海道の渡り鳥 うん、じゃ、後ほど。〕 結希はスマホの電源を切った。これは電池をなるべく消費しないようにする事と鬼畜への対応だった。 【まだ、仕事中だろうし、気付かれてもない。】 北見迄は9時間と出ていた。  網走湖の南側を抜ける事にした。 【へ~、こんな所に湖なんて在ったんだ。】 結希は記録に写真を撮りたかったが、スマホの電池は極力持たせたいので我慢した。 【私、勉強で使ってないし、容量はいっぱい空いてるから記憶しよ〰。】 結希は見る景色をなるべく溜め込んだ。それは、必ず会える彼へのお土産として。  結希は家を出た事で吹っ切れて居た。だから素直に彼には告白できた。イジメの事だけは、愛しき君を信じて。 【え?女満別?『メルヘンの丘』へ~寄ってみよう。】 結希の前方の道路標識に出ていた。背を向けると網走駅11キロと表示があり、 【もう11キロも歩いたの?】 結希は家を出た事の解放感で総ての感覚がマヒしていた。   程なくすると10台ぐらい車の止められる駐車場が見えてきた。 【へ~ここか〰。】  建物は在るが拓けていて、木製の看板に『メルヘンの丘』恥ずかし気にかけられていた。 暫らくそこにあったベンチに腰を掛けていると網走方面から一台の車がやって来た。 【もしや?早すぎるか?】 結希の感は当たっていた。 「お嬢さんこんにちは。」 降りてきたのは老夫婦だった。 「こんな所でお一人?」 婦人が語りかけた。 「いえ、ま〰。」 結希は口籠った。 【不味い、ここで感づかれたら。】 「私、施設児なんです。母が病気で九州の実家に行っていて、私は実家も貧しいのでこちらに残り、施設に入ったのですが母に会いたくて、許可を得て向かう事にしたんです。」 【無理あったかな?】 「そうなの?母を訪ねて三千里みたいね。」 【?なんだそれ?】 「あ、はい。」 「あてや、資金は在るのかね?」 旦那さんが聞いてきた。 「いえ、フェリー代とか掛かるのでなるだけケチろうかと?」 「そう、なら今夜は旭川に泊まるから一緒にどうだい?」 「良いのですか?」 婦人が 「ええ良いわよ。ご一緒しましょう。」 【ラッキー。これで網走からは離れられる。鬼畜の手の届かない内に。】  車中では半分嘘の半分事実を含め物語を語った。母が生きている事とし、話を盛り上げた。 【ごめんなさい】 結希は心の中で老夫婦に懺悔しながら会話を弾ませた。 〔九州の狼 イジメてどんな?〕 〔九州の狼 お〰い?〕 〔九州の狼 渡り鳥さ~ん。〕 沙樹の書き込みにこだまする事は無かった。 【大丈夫か?脳裏にはレーラの事が更に強くよぎった。】  一方結希は沙樹の心配をよそに北海道旅を満喫していた。 「私ぃ〰母子家庭だったからイジメられて、大変なんです。」 ぶっきら棒に話す結希に 「あなた、天真爛漫な子ねー。」 婦人は優しく返してくれる。 「今夜泊まるあては?」 唐突に旦那さんからだった。 「いえ。」 歯切れ悪く答えると 「なら、一緒に泊まれば良い。孫とでもしておいて。」 【え?でも?大丈夫かな?鬼畜みたいな奴も居るし、どう答えたら?】 そんな思いを遮る様に 「大丈夫よ。悪いようにはしないわ、3人も楽しそうよ。」 二人の醸し出す雰囲気を感じた直感を信じ、 「はい‼お願いします。」 明るく大きな声で答えた。 「おい、じゃあ宿に連絡入れてくれ。」 「はい。」 婦人はスマホで手続きを簡単に済ませてしまった。 【え?この年で?凄すぎる。】 「うふ、驚いた?私達はもう長い事こういう事を続けてるの、息子夫婦とちょっとね。だから旅をして、余生を潰してるのよ。家に居たくないから。」 「人それぞれ事情があるからな。」 二人は悪びれるでも無く、軽く語った。 結希はこの巡り合わせに感謝した。 【家に居たくない。私と同じだ。】  宿につくと、チェックインして、部屋に行った。 【名前言ってない?聞かれない?まあ良いか。】 食事も済み温泉に誘われた。 【痣が、良いか?一宿の出会いだし、バレても。】 「はい、ご一緒します。」 「嬉しいわ、孫と入れるみたいで。」 婦人は喜んで結希を伴い風呂場へ向かった。旦那さんも同行し入り口で別れた。 「じゃ!」 旦那さんは婦人に目配せをした。 【うん?何?】
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