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それでも一度心を許した結希には、もう猜疑心は無かった。
「気持ちいいわね〰。」
「はい。」
婦人は結希の痣にも触れなかった。
翌朝、朝食を済ませチェックアウトしたので、
「ありがとうございました。」
深々と頭を下げお礼をすると、
「乗りなさい。」
旦那さんが一言、婦人を見ると頷いてくれたので、車に乗り込んだ。
「外で話すと誰に聞かれるか?分からん。お嬢さんはご事情がおありの様だ。その年齢での一人旅、余程の事だろう気を付けなさい。男に特にな!旭川の道の駅で降ろして上げる。私達は稚内に向かうから、悪いがここ迄だ。済まん。」
旦那さんは運転しながら頭を軽く下げた。
「楽しかったわよ。」
笑顔で婦人は呟いてくれた。
【バレてた。】
「あの~、」
「良いのよ。何も言わないで。」
婦人は結希の言葉を遮り言ってくれた。
「じゃあ、健闘を祈るよ。」
「お母さんによろしくね。」
婦人の言葉を最後に二人と別れた。
「あの子、身体中に痣が。」
「だろうな、あの子はかなりの重りを背負っているよ。」
結希は次の行動に迷った。
【ご夫婦がここで降ろしてくれたって事は?ここで次を探せって事?】
スマホを開いて見た。GPS機能をオフにした。
〔九州の狼 イジメてどんな?〕
〔九州の狼 お〰い?〕
〔九州の狼 渡り鳥さ~ん。〕
あ‼三通も、
〔北海道の渡り鳥 ごめんなさい、電源切ってて、大丈夫無事ですよ〰。〕
〔九州の狼 ふ〰よかった。開口一番無事を伝える奴は何か危ない橋を渡ってる証拠だ。〕
【やっぱり、感が良い。】
〔北海道の渡り鳥 何でもないで〰す。今日は登校しま~す。〕
〔九州の狼 本当か?怪しいTEL番教えろ!位置情報追跡するから。〕
〔北海道の渡り鳥 は~い今度ね。学校遅れちゃうから、また〕
結希は電源を落とした。
【まじか?絶対怪しい。動けないしどうするか?】
沙樹は頭をフル回転させていた。
結希は当ても無くボーと駐車場に入る車に眼をやっていた。
「お嬢ちゃん、如何したの?」
若い男だった。
「いえ。」
逃げようとすると回り込んで
「俺、青森に行くんだけど行く?」
そう逃げる足を止めさせて告げた。
【どうしよう?さっきの旦那さんの言葉が脳裏をよぎった。】
男は無理やり手を取り車に誘導した。
【まあ良いか?鬼畜よりはマシかな?】
結希は従う事にした。車に乗り込むと、直ぐに車を走らせた。男は常にしゃべり続けた。
結希は流れる車窓に眼を向けながら聞き流していた。
「お前、ご老人夫婦に送って貰って居ただろう。」
結希の耳に飛びついた。
「え?見てたの?」
「やっと喋った。」
男は笑って言た。
「何を見てたの?」
「降りる所だけだよ。ただ、訳ありっぽく見えたし、立ちすくんでスマホ見てもそのままだから声を掛けた。」
「身体は売りません‼でもお口ぐらいなら。」
「バーカ!俺を見くびるな‼お前相当捻くれてるな、どんな事情か知らんが?その歳で?」
「あ!母さんに会いに。」
「うん?胡散臭い。」
「本当です。九州に行きたくて。」
「え?九州?ここ北海道だぜ!本気かよ?」
「はい。」
男は結希を見つめた。結希も見つめなおした。
「本気っぽいな、俺は網走のムショに居た。お袋に謝りに帰る途中だったんだ。そこでお前さんを見かけて、一日一善が出所してからの俺の誓いだ。」
「え?」
「だから、お前さんを拾った。どう見ても怪しいし?」
「え~と。」
「良い、みなまで言うな!人は皆、色々抱えている。俺も過ちを犯しているし。」
それからは静けさ漂う車内だった。
「私、父親にレイプされてるんです。それから逃げたくて。」
結希は初めて他人に話した。
「げ!聞かなきゃ良かった。そんな奴許せねえ!」
男の顔色が変わった。
【言うんじゃ無かった】
結希は後悔の念に駆られた。
「違げ~よ。俺も妹をレイプされ、その仕返しに行って、ついやり過ぎて人を殺めちまったのさ。」
「ごめんなさい。傷に触るような事を・・」
言い終わる前に
「お前は悪くない!悪いのは親だ?母親は?」
「私が小さい時に亡くなって、私は母の連れ子で・・・・」
結希は総てを言葉にできなかった。
「もう良い、語るな!思い出すだけでも辛かろう?」
男は車を走らせた。函館までは7時間の道のりだった。
『ボ〰。』
フェリーは出港した。北海道とはこれでお別れである。
「名残惜しいか?」
「いいえ!フェリー代すいません。」
はっきりと伝えた。
「良いって事よ!お前のスマホ見せろ。」
結希は素直に渡した。
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