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「楽しんで来い。」
文夫はそう言い残し中継地へと向かった。
結希はめ―いっぱい遊び倒した。途中スマホの電源を入れると、着信が、知らない番号だが恐る恐る出ると、
「もしもし、結希ちゃん、私よ、亜江。」
聞き覚えのある声でホッとした。
「なんで?」
「電話は直ぐに切って、お父さんに知られてる、東京なのはバレてるは!」
「大丈夫、今はユニバーサルだから。」
「え?どうやって?」
「トラックの運転手さんに助けてもらって。」
「どこへ向かうの?」
「それは〰。」
口籠る結希に
「良いわ、聞かない。取り合えずあの男からは逃げなさい。切るわね。直ぐに電源は落とすのよ。」
亜江は電話を切った。
【大丈夫かしら?】
結希は
〔北海道の渡り鳥 お願い本名教えて。私は三角結希〕
〔九州の狼 如何した?〕
〔北海道の渡り鳥 早く〕
〔九州の狼 古川沙樹〕
沙樹は結希の焦りを感じ取っていた。
【何だ?この展開?】
結希は直ぐに電源を切った。
「もしもし、柳さん?三角です。娘は大阪に居ます。」
【やられた】
「そうなんですね。至急手配します。」
「本当ですか?」
「はい大至急。」
「お願いしますよ。娘が心配で。」
亜江はまたもや何もしなかった。
結希は広島の平和記念公園に居た。
【明日は北九州。】
原爆ドームや資料館、公園内をくまなく見て周った。
「行くぞ、いよいよ九州だ。」
文夫は九州へ舵を切った。
結希はスマホを切ったままだった。
沙樹は心配で仕方なかった。
【本名聞くって?どういうことだ?】
勤は亜江の返事を待ちきれ無かった。
「もしもし、私は三角と申します。娘の件で柳さんにご相談しているのですが?いっこうに話が進まないのでそちらに。」
「あ、はい、申し訳ありません。確認でき次第、ご連絡させて頂きます。」
「頼みますよ。」
「はい、失礼いたします。」
亜江の元へ上司が駆け付けた。
「柳!三角さんの娘の件ってなんだ?」
怒鳴り声の凄い剣幕だった。
「え?何の?事ですか?」
「お父様から直電が私の所に来ている。惚けるな。」
「あいつは、前科持ちです。絶対に怪しい。」
「ふざけるな!問題が大きくなったらどうするんだ?三角って確か学校でもめて上からご達しが合った子だろう。」
「だから?何を?」
「もう良い、他の者にやらせる。」
「待って下さい。」
上司は背を向け立ち去った。
【結希ちゃんごめん】
亜江の立場さえ危うくなるのだった。
文夫と結希は北九州の空の下に居た。
『プシュー』
エアーブレーキの音が響き渡った。
「長旅ご苦労さん。」
文夫との別れだった。愛着の滲んだ助手席を離れ運転席のドアの前に回った。
「本当にありがとうございました。」
深々と謝礼をすると
「頼む、病院まで。」
「はいよ、結希ちゃんはあたしが預かるよ。」
結希の後ろに一人の女性が現れた。
「女房だ。だから安心しろ、じゃあな、何か困ったら俺に電話しろ、助けをだす。」
そう言い、
『パアン・パアン。』
エアーホーンを鳴らし去って行った。
「さあ、あと少し行くよ。結希!」
多恵は結希を乗せ一路、久留米医科歯科大学病院へ向かった。
「私は、多恵。勿論、文夫の妻だから、京よ。」
「はい、多恵さん。」
「お!のみ込み早いね。文夫に言われた?」
「いえ、文夫さんも名前で呼べって言われたので。」
「そうよ、のみ込み早くて良い。」
車は病院の駐車場に着いた。
「ありがとうございます。ここで。」
お礼を述べると
「なに言ってんだい!一度乗りかかった船最後まで行くよ。」
多恵は結希の上腕を掴み引き連れて病院の窓口に行った。
結希は心の準備も無く受付の前に立った。
三角家の前に黒服の男組二人がやって来た。
「三角さん、ご在宅ですか?」
掛け声に勤は、
「はい。」
玄関を開けた。その瞬間、深々と頭を垂れ、
「この度は申し訳ありませんでした。内の柳が。」
「いえ、で?」
「はい、警察に捜索願を出されてはどうかと~。」
「は~、でも柳さんにもお話した通り、事を荒立てたく無いので。」
「ご承知しておりますが、日にちも経っていますので。」
「分かりました。少し考えるのでお時間を。」
「はい、ご決意出来ましたら、こちらへご連絡ください。」
一枚の名刺を差し出し礼を尽くし去って行った。
桑野信次と記してあった。
結希は口籠っていた。多恵は背中を軽く押し出した。
「あの~、古川沙樹さんの病室は何所ですか?」
「はい、ちょっとお待ちを。」
結希は多恵の顔を見た。多恵は頷きながら、
「大丈夫。」
小さく呟いた。
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