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「あの~現在コロナの影響で面会制限がありまして、お名前を?」
鼓動がバクバクしていた。もしダメだったら、
「三角結希です。」
「あ!伺っております。来たら必ずお通しするようにと、お父様から。」
看護師が二人付き病室へと案内されていた。
「なにもんなんだい?相手は?」
多恵が小声で結希に言った。結希は首を小さく振った。
「う、うん。」
案内の看護師が咳払いで、多恵を注意した。
【どんな奴だ?結希の恋の相手って?】
多恵の心の問いかけの間に病室に着いた。
「こちらです。」
案内すると看護師は深々とお辞儀をしてその場から下がった。
「さあ。」
多恵が結希を促す。
『トントン』
「失礼します。」
ドアを開けると、そこにはどう見ても寝たきりの男子とその横に母らしき人が立っていた。
【げ?何この展開?】
多恵でも立ち尽くす程の衝撃だった。
しかし結希は身じろぎもせず病室内に突き進んだ。多恵は小さく歩を結希の後へと進めた。
「あなたが結希さん。」
寝たきりの男の子の横の女性からだった。
「はい、突然押しかけてすみません。」
「良いのよ、北海道ですってね?はるばるありがとう。」
手で男子の隣を指した。結希はすっとその場所へ向かった。多恵はその手前で立ち止まった。
「やあ、九州の狼事こと、古川沙樹です。」
結希が視界に入った瞬間、沙樹が囁いた。
「ごめんね、嘘をついて、こんななんだ。」
結希は首を振り、更に沙樹に近づいた。
「会いたかった。」
結希の最初の言葉だった。
隣に居た母は既に涙ぐんでいた。
「ごめん。」
沙樹は更に謝った。
結希は無言で沙樹の頬に手を伸ばした。
触れた瞬間、
「会えてよかった。」
っと呟いた。
後ろに居た多恵でさえも、もらい泣きしていたが、当人同士は一切涙は見せなかった。
それから数日は古川家でお世話になる事になった。
「結希さんありがとう、訪れてくれて。」
沙羅は毎日最高のおもてなしをした。
「すいません。突然押しかけたのに。」
「良いのよ。」
沙羅と結希は毎日、沙樹の病室を訪れた。
「驚いたんじゃね~、俺を見て。」
「うんうん。」
首を横に振り結希は答える。
病室からの帰り沙羅に結希は打ち明けた。
「私、父親にレイプされてたんです。だから、沙樹には釣り合わない。」
沙羅は笑って、
「関係無いは、ただ沙樹には内緒にして、あの子も色々あった子だから。」
「良いんですか?穢れた子で?」
「穢れた?誰が?私には分からないわよ。」
沙羅は車を家に向かって走らせた。
結希は世の中で三人目の告白をしたのだった。
「すいません、沙樹の前で泣いてしまいました。」
「どうして?」
「お願いした。あの子が訪れて、沙樹の総てを一目見て受け入れてくれたのでつい。」
「そうか、仕方ないな。三角結希さんだったっけ?」
「はい、それでご相談が、実はその子父親にレイプを受けているらしくて。」
「なに?分かった考えてみる。」
しかし夫は直ぐには動けなかった。解散が間近に迫っていたからだった。
沙羅と結希は打ち解けていた。まだ三日しか経っていないのに親子の様であった。
勤は意を決した。
「もしもし桑野さんですか?三角です。」
「あ、どうも、三角さんお電話、お手数おかけして、で?」
「はい、届を出したいと。」
「分かりました。手配します。では。」
「よろしくお願いします。」
勤は結希が手元のに戻る事を確信していた。
結希が吉川家に来てから4日目の朝、突然電話が鳴り響いた。
「もしもし。」
「俺だ、結希ちゃんの父親が動いた。捜索願が出たらしい、今は動けない万事休すだ。申し訳ない。」
「あなた!結希をそんな男の許へ帰すのですか?」
「済まん、時期が悪すぎる。」
電話が切れた。
沙羅はできる限り沙樹と結希を会わせる事にした。限りある時間を共有させる為に。
「こいつ、女にはめっぽう弱いんだぜ。」
そこに居たのは半示だった。
「え〰、滅茶苦茶もてそうだけど。」
結希は笑い転げていた。三人での談話も終わり帰宅すると、家の前に一台の黒いセダンが停まっていた。
【この時が来たか】
沙羅は結希の手を強く握り、
「必ず助けるから負けないで。」
結希は意味も解らず頷いた。
家の前に車が着くと、
「すいません奥様、この子三角結希さんですよね?」
「はい。」
「親御さんから捜索願が出てまして。」
「あら?そうなの?」
「はい、三角結希さんは我が署でお預かりし親もとへと。」
聞いていた結希はスッと車を降り、刑事の方へと向かった。
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