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半示はとるものもとらず何処かへ飛び出した。
〔ん?〕
沙樹の書き込みに、半示の応答は無かった。
【まさか?いや、流石に半示でも、北海道迄は行かんだろう?】
沙樹は心配しながらも結構の日を待った。
その日が来た。
〔結希どう?元気?〕
〔うん、沙樹が名前打つなんて珍しい〕
〔そうか?結希愛してるよ。〕
「おい。」
勤からのお呼び出しである。
〔ごめんちょっと〕
結希は沙樹の愛の言葉を胸に秘め、勤の許へ向かった。
「おお来たか。」
勤は全裸になり準備万端であった。
結希はいつも通り勤の求めに答えようと、心に沙樹の言葉を秘め動いた。
次の瞬間、一斉に玄関から人がなだれ込んで来た。
「お?おう~?」
勤は全裸で取り押さえられた。
「何だ?お前ら?住居不法侵入だろう?」
そう言う勤の姿は写メや動画に撮られまくっていた。
先頭の一団に半示の姿があった。
「え?」
「姫助けに上がりました。なんてね?あいつの代わり、ダチだし、今回は絶対に助けたかったから。」
沙樹の集めたネット仲間には警察の御OBや現役刑事も混じっていた。
「あんた、毎日良くもこんな幼気な子を、ちゃんと録音してあるわよ!」
「ああ、毎日家の前や裏も動画で撮ってある。誰も入ってない、居たのはお前とこの子だけだ。」
「状況証拠もそろっている。立件できるか?分からんが連れて行く。」
勤はタオルケットで包まれ部屋から連れ出された。
そこへ亜江が駆け付けた。
「何?この騒ぎ?」
結希に問うが?結希は首を横に振った。
「いえ、寝たきりの救世主ですよ。」
半示が亜江に告げた。
「え?私は古川議員から連絡を受け、飛んできたのに。」
「やはり、なかなかやるな!沙樹の親父は。」
「え?寝たきりの救世主て?」
「感が悪りいな?結希!俺が現れた時点で気づけよ。」
「え〰?」
結希は膝から崩れ落ちた。それを亜江が賢明に支えた。
「皆さん。ありがとうございます。お約束通り画像の拡散はお控え下さい。救世主への報告のみで。」
深々と頭を下げ告げる半示の姿があった。周りの皆は次々に沙樹のラインを教え合っていた。ごく一部のご近所さんには、直接連絡できるようにしていたのだった。
映像は流れないが、書き込みは拡散された。世界中から沙樹へ祝辞が送られた。
沙樹の元へも動画が届いた。
ど真ん中で半示が偉そうに講釈を述べている。【うまい所持ってきやがって】
沙樹は胸を撫で下ろした。
【レーラ今度こそ上手くいったよ】
群衆の中から良也が飛び出してきた。続いて京夫妻も、抱えられながら結希が出てくると、奥から名前も告げなかった、老夫婦までもが現れた。
結希は亜江に支えられながら外に出た。
「皆さん、ありがと~‼」
結希は自分の出せる声を張り上げて訴えた。
「ウォ~!寝たきりの救世主、万歳‼」
「結希ちゃん古川議員とは話が付いてる。彼と行きなさい。荷物は私がまとめて送るから。」
京夫妻は結希を手招きして、
「乗ってけ、あの時の約束だ。」
頷く結希の横で、
「すんません、俺も良いですか?なんせ来るだけの飛行機代で小遣いおけらなんで。」
頭を掻きながら下げる半示も動画で沙樹に伝わっていた。
【あいつ?バカか?帰りも考えずに】
結希と半示は京夫妻の車に乗り込み皆に送り出された。
結希は車に乗るまで皆に握手を求められた。乗り込む寸前に良也と老夫妻と熱く抱擁して別れを告げた。
「あいつはとんでもない事を。」
沙羅への夫からの電話だった。
「すいません。監督不行き届きで。」
「まあ良い、起きてしまった事は消しようもない。慎めと伝えてくれ。」
沙樹と結希は再会した。その横では半示が鼻の下を指で擦りながら自慢げに立っていた。
「バカか?お前?」
「ふん、同じバカなら世界一のバカになるさ。」
「お前らしい。」
「お前に言われたく無いわ。」
半示は、ほくそ笑んだ。
「この子が結希の意中の子か?」
多恵の顔をまじまじと見ながら、文夫が言った。
「言ったでしょ!なかなかのお似合いカップルだって。」
「まあ、確かに。」
結希は沙樹の頬に自分の頬を摺り寄せ、
「ありがとう。」
と囁いた。
それから三ヶ月が経った。
その間に沙樹の父、古川佑樹議員は手を回し矢継ぎ早に色んな法案を提出していた。
『性犯罪者の被害者への聞き取りの改善。これは被害者が状況の説明、再現などによる心的迫害を受けないよう改善。家庭内の性犯罪抑止の法。児童相談所の発言力の強化。警察の事件が起こってからでしか動けない現状の改善。養子縁組の拡充。』
等であった。
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