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結希は特例で一度も聞き取り調査はされなかった。それは、世界中から政府や議員に宛て投稿が相次いだからだった。
父、古川佑樹が沙樹の病室にやって来た。そこには、沙羅と結希も呼ばれていた。
「沙羅、お前には悪いが、離縁してくれ。」
「なんで?」
沙樹が聞き返した。
「沙羅、今回の諸事情の前に沙樹の身体を治す為、四方に手を尽くした。その結果、開けてはならないパンドラの箱を開けてしまった。」
三人が固唾をのむと、
「沙羅、ごめん。お前の最初の名前は朴沙羅だ。諫早家へは養子で入って居た様だ。勿論戸籍は当時上手く事を運び綺麗にしてあったらしい、だが私は上を目指したい。済まん分かってくれ。」
沈黙が続く中、更に、
「実は結希と沙樹は結婚できない!」
「え?」
沙羅が呟いた。二人は眼を見合った。
「結希は俺の子だ。」
「え?」
三人が同時に奇声とも録れる、声を出した。
「沙羅済まん、当時幼馴染の岩下望と付き合っていた。」
「知っていました。」
沙羅はさらりと言いのけた。
「え?」
佑樹は一瞬つまり、続けた。
「望は突然姿を消した。当時探したが見つからず、時を経た。結希が現れ、沙羅に頼まれて、戸籍を調べたら、異母兄妹だった。」
「そう?」
沙羅は身じろぎもせず答えた。沙樹と結希は言葉が出なかった。
「だから、無理なんだ。」
「では、私の意見を!離婚は受け入れます。」
「済まん。」
「でも、二人は一緒にします。私の養女として、結希を引き取ります。あなたは二人への償いと私への慰謝料として、養育費や生活費、それに治療費も全て一生賄って貰います。」
「解った。」
「それと結希のお腹には子供が宿っています。」
「あ。」
結希が顔を伏せた。沙樹は結希を覗き込む、
「下ろさないのか?」
佑樹は驚きながら言った。
「はい、沙樹はこの身体、人工授精の可能性はあれど子供は難しいかも、だから産ませます。その費用も養育費もあなた持ちです。」
「私がそこまで働けるか?」
弱気になる佑樹に
「議員なんてへばり付いてれば、定年は無いでしょ!三人への報いです。お諦め下さい。」
「ああ、解った。」
「沙樹、ごめん私、禊ぎを守れなかった。」
「良い、俺の動きが遅すぎた。ごめん。」
「解ります?あなたの子供達の姿が?」
「済まん。」
三人に向け佑樹は頭を下げた。
【あの親父が、ここまで平伏すなんて】
沙樹は思った。
「じゃあ、あなたが本当の父なの?」
結希の切実な訴えだった。
「ああ。」
佑樹は言葉に詰まりながら答えた。
沈黙の中
「さあ、話は付いたわ。最後の晩餐よ。」
沙羅はナースコールを押した。
病室には様々な料理が少しずつ運ばれてきた。
家族揃っての最後の食事。
「ああ。」
佑樹は沙羅の手際の良さに舌を巻いた。
「頂きましょう。」
沙羅は料理を取り分け、皆に配った。沙樹の分は沙羅と結希で手分けして口に運んだ。
「まだ慣れて無くて。」
「良いのよ。これから慣れれば、結希。我が家族へようこそおいで下さいました。」
程なくして古川家の離婚は成立した。円満離婚だった。
しかし、沙羅は旧姓に戻さなっかった。
「沙羅済まない。」
「良いのよ。これであなたは出世して、そして貢いで貰わないと。解った?」
「ああ。」
「たぶん、結希の子は男の子!あなたの跡取りよ。」
「え?」
「結希の子が跡取りになる時代には、もう血筋だの出生等も関係なくなってるはずよ。」
「お前、そこまで。」
「もう、お前呼ばわりしないで、外では良いけど家の中ではサン付けでね。」
「え?」
「別れてもあなたは二人の親に違いは無いわ。お忍びで隠れてこそこそといらっしゃい。」
「沙羅そこまで。」
「あなたを心底愛した。二人を忘れないで。」
「二人?」
「そう、私と結希の母親よ。」
「ああ、望の事か?」
「痛て。」
沙羅は佑樹の二の腕を力いっぱいつねり倒した。
「これで許してあげるわ。私の願っていた、娘迄持たしてくれたから。」
結希は無事に出産した。元気な男の子だった。
「おめでとう。」
沙樹だった。
「うん、ありがとう。」
結希は自宅に戻った。沙樹に答えた。
「おぎゃあ~。」
部屋に赤子の声が響いた。
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