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「そう?じゃあ、気持ちは無かったと?」
{いや。}
口ごもる佑樹、
そのまま自然と眠りにつく佑樹を眺めながら、小声で
「ありがとう。」
これが、最初で最後の交わりだった。
二人の連絡方法は、望の家への直電だけだった。
『プルルルル〰。』
電話は鳴るがいっこうに出ない、
「う〰ん。」
佑樹は諦め受話器を置いた。スマホだと必ず足が付く、その為の用心だった。しかし、佑樹にはそれが仇となった。
佑樹は望のアパートへとやって来た。
『ドンドン。』
応答がない?すると隣の住人が、
「岩下さん出て行かれましたよ。」
佑樹は愕然とした。出会ってから変わる事の無い永遠の愛を自負していたからであった。
「おめでとうございます。女の子ですよ。」
産声と供に告げられた。
【佑樹との子、絶対守る。】
この時、生を授かったのが結希であった。
望は北海道の網走に流れ着いていた。佑樹の絶対に目の届かない所へと。
佑樹は地方議員であった。もし、将来、国政に進出すれば、自分が重しになる。その前にはいつか別れを決断しなければならないと誓っていた。その切っ掛けが、結希の妊娠であった。
あの後、2カ月が過ぎた頃に生理の遅れに若しやと思い、検査キットで確認、そして直ぐに家を引き払った。
何のあてもなく、ただ、網走刑務所を耳に覚えていたので、電話で契約しそこへ荷物を送り、三角を後にしたのだった。
北海道は当然、雪が降る。南国育ちの望には、最初は大変だった。
それでも、女手一つ結希を育んでいた。
3年が過ぎた頃、思わぬ出会いが合った。仕事先で雪掻きをしているさなか、
「大変そうですね?」
一人の男が声を掛けてきた。
「いえ!今男の人が居ないので私が。」
「なら、手伝います。」
男はおもむろに手伝い始めた。
それから、男は店の店長にも気に入られ、一緒に働く仲となった。
「覚えています?東京駅で‼」
望は記憶を手繰った。
「え?仲間の像の?」
この男はあの時の、三角勤だった。
「思い出しましたか?私は最初から気付いていたのですが。」
「え〰、偶然。」
「ですね~。」
この出会いが、結希の人生を翻弄させるのであった。
しばらくし、勤は望の家へ通うようになる。結希も人怖じ知らずで勤に懐いていた。
「良かったら、僕と家族に成りませんか?」
勤からの申し出だった。
「考えさせて下さい。」
望は即答しなかった。
それからは、会うたびに猛烈なアタックを勤から受けた。
半ば根負けし、二人は夫婦となった。
三角望と三角結希に成ったのだった。
三人は仲良く日々を過ごしていた。
結希の5歳の頃、突然の悲劇が襲った。
「ご臨終です。」
結希は訳が分からなかった。
「ママは旅立った。もう帰って来ないんだよ。」
勤は優しく結希に諭した。
雪降る中、雪掻きをしていた望にスリップした車が突っ込んだのだ。
結希は父子家庭となった。
小学校に上がるとだんだん友達の様子が変になって来た。
3年生になる頃には孤立していた。
「結希ちゃんはあっち行って‼」
クラス中、結希をのけ者にした。
しかし、辛うじて二人親友は居た。
「葵ちゃんてさ〰、ドンくさいよね!」
遠藤結菜であった。
「う〰ん?そう?」
結菜とは名前に同じ結が付くので親近感があり、幼稚園からの仲だった。
「結希が葵ちゃんの事ドンくさいって言ってたよ!」
「え〰、なにあの子!」
岩下葵だった。葵とは自分の旧姓が被っていたので仲良くなり、こちらも幼稚園からの付き合いだった。
【これで、葵ちゃんを独占できる。】
結菜の策略だった。
「あんな裏表のある子、ハブね‼」
葵はまんまと結菜の策にハマってしまった。
「うん!あの子の教科書ビリビリにしちゃおう。」
二人はクラス中を煽り、結希をイジメの対象として、確立していった。
結希は授業中、先生に刺されても、
「分かりません。」
しか答えられなかった。当然である、その授業の内容のページなど、教科書に存在しないのだから。
4年生に上がっても、イジメは続いた。
最悪な事に担当教員さえも、結希をハブにし、わざと教壇に呼び出し、前に立たせ、
「これ?分かりますか?」
っとクラスの皆に目を配り問いかける。
「分かりません。」
どっとクラス中から笑いが起こる。
「はい、分からないちゃん席に戻って。」
イジメも日々続き、上履きが無くなったり、見つかった上履きには画鋲が刺されたりしていた。
でも、勤には話さなかった。働き支え家事までこなし、大変なのにこれ以上迷惑を掛けたくなかったからだ。
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