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亜江の問いかけに、小さなか細い声で、
「クラスメイトの男子に胸を触られた。」
「え?いつ?」
「今日、たった今、帰る前に!」
亜江は想像していた答えとは違う事に戸惑いながらも、
「分かった!私が学校に話してあげる。」
結希は驚きながらも、半信半疑で頷いた。
亜江は校長室に居た。
「三角さんは、嘘は言ってません。」
「しかし〰、一方的な意見では〰。」
「じゃあ!聞き取りを私の前でして下さい。」
「はぁ〰。」
校長の歯切れの悪い返答だった。
後日、保護者も伴い亜江の前に男子生徒達が並んだ。
「初めまして、柳亜江と申します。で?どうなの?」
「何もしてません。」
きっぱり一人の男子生徒が言い切った。すると他の男子生徒も同様に口々に否定した。
「柳さん!聞けば、その三角何某さんとか言う子の親はレイプ犯だそうじゃ無いですか?逆に家の子達をそそのかしたんじゃありませんの?」
一人の母親の発言だった。堰を切った様に他の保護者も同様な事を口々に騒ぎ始めた。
【こいつら‼】
亜江の口から洩れそうになった時、
「まあ、この辺で、話は分かったと言う事で。」
っと校長が話を切り上げ皆を帰そうとした。
「待って下さい。」
亜江が立ち上がると、
「私の夫は市議会議員ですのよ‼まだ?お話になります?」
そう言うと踵を返し皆立ち去った。
「校長!出来レースですか?」
「まあまあ、そちらの上へも話は通してあります。今日の所はお帰り下さい。」
亜江は遭えなく帰る事になった。
数日後、結希に謝ろうと公園に出向くと、結希の方から亜江を見つけるなり駆け寄って来た。
「お姉さん、ありがとう。」
亜江は面を食らった。
「え?」
「男子達、こいつはチクるから寄らない方が良いって、来なくなったの‼」
怪我の功名だった。
「そう、良かった。」
「うん、亜江さん。」
結希から名前で答えられた。
「ありがとう。これからも名前で呼んでね。」
結希は我に返った。
「ごめんなさい。嬉しくてつい名前で。」
「良いのよ。これからも相談してね。」
結希と亜江の距離は少し縮まった。
結希は中学生になっていた。しかし、専ら公園でスマホをいじる事が多かった。見るのはイジメの被害者の投稿SNSであった。
しかし、見るだけで書き込みする勇気が無かった。
〔九州の狼 色々大変ですが、一人じゃ無い!必ず誰か見てますよ‼〕
一通のコメントだった。
〔北海道の渡り鳥 貴方の書き込みに勇気を貰えました。〕
これが二人の初めて交わした文だった。
結希の産まれた丁度同じ日に九州で男の子が産声を上げた。
「古川さん、男の子です。おめでとうございます。」
沙羅の横に男の子が連れて来られた。
「お元気そうですよ。」
この子は沙樹と名づけられる。
父が慌てて病院に駆け込んで来た。
「沙羅良くやった!しかも、男の子だなんて。」
沙羅は夫に頷いた。
「良かったわ、大役が果たせて。」
沙羅はこの時36歳だった。もう、高齢出産に差し掛かる所での妊娠だった。
「3年も掛ったんだ。でも、良くやってくれた。」
父は衆議院議員であった。跡取りも期待され、周りから色んなプレッシャーを受けていた中でのご懐妊だった。
沙樹はすくすく成長した。幼稚園に入ると既に、友達を束ね何にでも率先して取り組む子だった。
小学校に上がると、議員の息子として注目され、一年生から学級委員に抜擢され、それに答えるべく、日々精進していた。
「お前!いい気に成るなよ‼親の七光りの癖に!」
「あ〰!手前こそ何だよ?いつでも付き合うぞ。」
これが大親友となる、中村半示であった。
まだ幼い頃は反発し合い、常に一触即発の雰囲気を醸し出していたが、二人とも文武両道でサッカーをし、良いライバルに成りつつあった。
3年生になると、二人ともモテまくっていた。
「半示ぃ‼女とっかえひっかえするの止めろよ!」
「良いじゃん、モテる内が花‼今の内に味わっとく!」
二人は似てる所も合ったが、女性関係には大きな違いがあった。
沙樹は硬派で気を許す仲には優しく、また、話しかければ気安く応じるが、一人で居ると誰も話しかけられないオーラを放っていた。
「沙樹、そんなんやってると、いざって時モテね〰ぞ‼」
軟派な半示は常にそう語りかけていた。
「良いんだよ!それを含めて見てくれる相手にしか、興味ね〰し‼」
そこはまだ、水と油だった。
二人の統率により、クラスだけで無く、学年もイジメが発生していなかった。
やがて、二人は別れる事となる。父の希望で沙樹は私立の進学校へ進む事となったからだ。
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