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プロローグ
六花がいなくなった。
あの日、私の目の前に黒塗りの大きな車があった。
車の中には真っ白な棺。
あの中に六花はいた。
もう動かない、冷たくなった六花が。
六花は、私と同い年のいとこ。
六花の家と私の家は近くにあって、私たちは小さい頃からよく一緒に遊んでいた。
大きくなってからは、学校が終わると、どちらかの家に行って、宿題をしながらおしゃべり。
私たちは強い絆で結ばれていた。
親友、大の仲良し、なんて言葉では言い尽くせないくらいの強さで。
六花は交通事故で亡くなった。
道に飛び出した子どもを助けて死んだんだ。六花らしい。
私の周りでは、六花のお父さん、お母さん、親戚、友達、関わりのあった人、誰もかもがすすり泣いていた。
誰からも愛される子だったから。
でも、私の目からは涙がこぼれない。
悲しみだって感じない。ぼんやりした感じ。感情が枯れてしまったのかも。
つい最近まで、六花は私の隣で笑っていた。元気に、死の陰りなく。
そんな六花が死んでしまったなんて、信じられなかった。
神様はいい人から天に召していく、とよく言われるけれど、あの言葉は本当だったんだ。
六花はやさしくて、とってもいい子だから。
六花は来月の六月で十五歳の誕生日を迎えるはずだった。
けれど、六花は十五歳にならない。永遠に十四歳のまま。
「清花、もうすぐお別れだよ」
お兄ちゃんが私の隣に来て、そう言った。
霊柩車に運転手さんが乗り込んで、ドアを閉めた。
パアァァァァン……
無機質なクラクションが、無機質な空に響き渡る。
その音を合図に、車が動き出した。
車が、六花が、私から離れていく。
「六花」
ひとりでに、足が前に踏み出していた。
車はゆっくりと、でも確実に私から離れていく。
「六花」
今になってやっとわかった。
六花はもう、この世にいないんだと。遠いところへ行ってしまったんだと。
「六花!」
そんなの嫌だ。
私たちは小さい頃からずっと一緒にいた。どんなときも。
離れ離れになるなんてだめだ。
私は霊柩車を追いかける。
六花はまだ十四歳だ。
こんなの早すぎる。
十四年しか生きないで、この世を去るなんて、そんなのいいわけない。
歩くスピードが速まる。
六花といたい。
一緒に高校生になって、一緒に大人になって、一緒にいろいろな楽しいことをするんだ。
これまでみたいに、これからもずっと一緒にいるの——!
「六花、行かないで!」
私は六花に向かって手を伸ばした。
必死に手を伸ばしたけれど、手は届きそうで届かない。
誰かが私の名前を呼びながら、身体を押さえた。
私はそれを振りきろうともがく。
「六花! りっかあああああ!」
車が、六花が、私からだんだん遠のいていく。
あの日、すべてが崩れ落ちた。
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