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エピローグ
その後、六花は私たちの家に帰ってきた。
お兄ちゃんも私も、六花をあんな危ないところにいさせたくなかったから。
それからは、私たちはいつもどおりの日常を送っていた。
しかし、突然その日は来た。
ある日、六花の右腕がぽろりと外れた。
すぐにお兄ちゃんが治してくれたけど、またすぐに右腕は取れてしまった。
何度も治したけれど、毎回右腕は取れてしまう。
次は左手の指が自由に動かなくなった。
お兄ちゃんが油を差してくれたけど、あんまり動きはよくならなかった。
今度は左腕が外れた。
左腕も右腕と同じようにくっついてくれなかった。
そして次は右足が外れ、次は左足。
六花の四肢はなくなってしまった。
右腕が外れたころからか、六花はよくぼんやりとするようになった。
六花、と名前を呼び続けても、気づかないことが多くなる。
六花はだんだん感情を表さないようになり、あの花開いたような笑顔を見せることも少なくなった。
六花から感情が消えたとき、とうとう六花は動かなくなった。
残ったのは、頭だけ付いた胴体とバラバラになった手足。
私はそれを拾い集めた。
庭に大きな穴を掘る。
六花のお墓を作るためだ。
暗く冷たい、じめじめした穴に、六花の亡骸を寝かせた。
穴の中の六花を見下ろしていると、お兄ちゃんが声をかけてきた。
「ごめんね」
「どうして?」
「僕が六花の人形を作らなければ、清花も六花も悲しい思いをしなかった」
お兄ちゃんのほうへ顔を向ける。
「六花が死んじゃったとき、清花が壊れてしまうんじゃないかって思ったんだ。あまりにもかわいそうだったから、見ていられなかった。だから、六花の人形を作ったんだ。元気づけるために。でも結局、清花を傷つけることになってしまった」
お兄ちゃんはその繊細な顔を、苦しそうに歪める。
「誰も僕のことを認めない。両親でさえも。だけど、清花だけは違う。清花はこんな僕のことを大切に思ってくれた。僕にとって清花は、大切な大切なかけがえのない妹なんだ。そんな清花のために何かしたかった。ただそれだけだったのに……」
お兄ちゃんは右手をグッと握りしめた。
見事な人形を生み出す手が壊れてしまいそう。
私はそっとお兄ちゃんの手を開いた。
六花は一度でなく二度死んだ。
死ぬのは、誰にとっても怖いことだ。
それを六花は二階も経験したんだ。
そして、六花は最後まで、死んでからも私に振り回された。
すっと言葉が浮かぶ。
人間って、勝手だ。
六花のお墓に、庭に咲いていた花を供えた。
白くて小さな、可憐な花。
六花に似ていたから。
私の腕時計は再び時を刻み出した。
突然、針が動き出したんだ。
タッタッタッタッ
時間は進み続ける。
お墓の前で、私は少しだけ泣いた。少しだけ。
そんな私の頬を、やわらかな風がやさしくなでた。
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