3ヨイドレを戻す

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3ヨイドレを戻す

 自宅で両親に暴力をふるい、壁や家具などを叩いたり蹴ったりして傷つけたそうだが、記憶がない。  父はうずくまり、ガタガタ震えている。  母は私を抱きしめ、わあわあと泣いている。  缶ビールを何本も飲みながら、千鳥足で歩いて帰ってきたと思いきや、無言で暴れて、殴る蹴るなどもしたらしく、家の中は割れた食器や倒れた家具が散乱して、ひどい状態だ。  生来の下戸で自分からアルコールを買ったことがなく、なぜこうなったかもわからない。  どうして、なんでと記憶をたぐろうとしたら、和室で休んでいた祖母が騒ぎを聞きつけ、どしたんだいとやってきた。  祖母は私を見るなり「あれまあ、うちの孫にヨイドレが憑いたねえ。ずいぶん派手にやったこと」と惨状を見渡す。 「忙しかったり、我慢ばかりしているとね、こうなっちゃうんだよ。ばあちゃんが追い出してやるから、なあんも心配いらないからねえ。ヨイドレはこっちへお行き、こっちのほうが楽しいよ。なあお前」  ヨイドレってなに、と訊こうとしたら目を両手で塞がれ、すっと深く優しい眠りに堕ちてしまった。
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