愛を望む

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「治安悪いところだけど大丈夫?本当に気をつけてね」 「あなたは心配しすぎ。大丈夫。行ってきます、愛してる」  夫にキスをして家を出る。中学を卒業して20年、結婚して今の本名は花森愛だ。せっかく散々からかわれたあのふざけた本名から解放されたというのに、仕事上では未だに上尾愛を名乗っている。SNSもその名前でやっている。エイミーにもう1度会いたくて、気づいて欲しくて、エイミーと二人でリーベPを組んでいた時の名前を名乗っている。彼女が私の血を吸うことなんてもう一生ないのに、意地のようにお酒もたばこも一切口にしていないし、これからもしないだろう。結局彼女を恨むことなんて出来なかった。  商業作詞家になった。夫とは仕事の関係で出会った。同い年で、音楽の趣味が驚くほど合ったため、すぐに意気投合した。NEIRO関連楽曲に詳しい夫は当然青春時代に話題になったリーベPのことも知っていたが、私がリーベPの片割れだったことは話していない。  エイミーが教えてくれた世界で私は今日も生きている。今では売れっ子で、有名アーティストにも詞を提供している。しかし、この業界はシビアな競争社会だ。恨みを買うことも多い。脅迫状が自宅にも届いたので、その件もあり優しい夫は心配しているのだろう。  詩を提供したアーティストがアメリカでライブを行うので、関係者として招待を受けた。大変な名誉だ。人間の女性の平均寿命まであと50年と少し、私はどこまで高みに行けるんだろう。なれるだろうか、エイミーにふさわしい私に。
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