愛を望む

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 回数を重ねるごとに、エイミーが私の血を吸うことには少しずつ慣れてきた。私は意味も無く、吸血後にエイミーの首筋を噛んでいる。律儀な彼女は一方的に私に痛みを与える罪悪感に耐えられないらしく、同じ痛みを求めた。彼女の気が晴れるならと血がほんの少し出る程度に噛んだ。  私の血は美味らしい。 「清三郎さんとどっちが美味しい?」 という言葉を幾度も飲み込んだ。気づかないうちにエイミーに対する独占欲が芽生えていた。  長い髪のおかげで噛み痕は隠せた。先輩に振られたときに衝動的に髪を切らなくて良かった。  音楽の方も、新曲を投稿するたび再生数は増え続けた。私は詩ではなく詞を書くようになった。音楽のリズムを意識するようになった。目を閉じれば、NEIROが歌う姿とエイミーがピアノを弾くが見える。音は聞こえない。しかし、その映像には字幕が流れる。エイミーが音を紡いでくれることを想像すると、いくらでもフレーズが浮かんだ。  コメント欄に、歌詞のクオリティがどんどん上がっているという感想が増えた。誇らしかった。3年生の夏休みにはついに100万再生を記録した。私たちの未来を描いたその歌を口ずさみながら登校した。  リーベPの年齢性別素性は一切公開していない。だから、私がエイミーと組んでいることは誰も知らない。ふたりだけの大切な秘密。私は私が嫌いだったけれど、リーベPの作詞担当になってから私のことを生まれて初めて愛せた。この日々が永遠に続くのならば、他に何もいらない。  ある日、音楽室でエイミーがピアノを弾いていると、たまたま黛と会った。黛は私に目もくれず、エイミーに話しかけた。 「すごーい!ピアノうまいんだね」 「どうも」  それから時々、黛はエイミーに話しかけるようになっていた。うっとおしくて吐き気がした。しかし、あと少し我慢すれば名門私立を受ける彼女とは離れられるので気にしないことにした。  エイミーと同じ高校を受けた。手応えは完璧だった。これから先、高校でも大学でもずっと一緒に歌を作り続ける。将来はその道に進むのもいいのではないかと思い始めた。 「ずっとエイミーと一緒にいたい」 「私もだよ」  エイミーは寂しそうな目で答えた。愛した人を噛み殺した自責の念に駆られているエイミーに、ヴァンパイアの契約のことを私から提案するのは憚られた。だから、これ以上の表現はできない。  でも、生涯でひとりしか新たなヴァンパイアにする人間を選べないのなら、私を選んで欲しい。ヴァルシュミーデや清三郎に次ぐ第3希望だとしても、エイミーに選ばれたかった。
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