愛を望む

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 卒業式前日、高校の合格発表に一緒に行こうと約束していたが、エイミーは現れなかった。私は合格していたが、エイミーの番号が分からない。連絡してみたがLINEは既読すらつかなかった。心配になって家に行ったが留守にしていた。  夜、黛からLINEが届いた。 「ふたりで動画投稿してるんだって?でも、エイミーはもうアイウエオちゃんはいらないんだって」  送信された動画のサムネイルにはピアノを弾く仮面の少女と歌う黛の姿が映っていた。動画のタイトルは「卒業ソングメドレー、歌ってみた」というシンプルな物だった。仮面の少女はスマホ画面で見ると小さくて分かりにくいが、紛れもなくエイミーだった。おそるおそる再生すると、エイミーのピアノで黛がJ-POPを歌っていた。「ピアノがプロ級」「歌の子もうまい」と更新するたびに絶賛コメントが増えていた。  一睡も出来なかった。翌朝登校して、いち早くエイミーに昨日黛から変なLINEが来たと言おうとしたが、教室に入る前に黛に肩を掴まれた。 「アイウエオちゃんさあ、もうエイミーにつきまとうのやめてくれない?ストーカーで訴えるよ」 「何で黛さんにそんなこと言われないといけないの?」  心底不愉快だった。 「何でって、気づくでしょ普通。昨日の合格発表一緒に行く約束ぶっちされたんでしょ?嫌われたんだよ。エイミーは私と同じ高校行くから、アイウエオちゃんとは今日でバイバイだよ」  意地悪く笑う黛を無視して、エイミーの席まで行き、腕を掴んで空き教室まで連れ出した。 「清恵から聞いていると思うけど、リーベPは今日でおしまいだ。そういうわけだから」  でたらめだと否定してくれると思ったのに、エイミーは私を冷たく突き放した。清恵。なんでそんなに親しそうに呼ぶの。なんであいつにリーベPのことしゃべったの。 「そういうわけって何? なんで? 私何かした?」 「別に。清恵に誘われたから。活動しやすいように彼女と同じ高校を選んだ。それだけだ」 涙が止まらなかった。どうして、私たちを散々馬鹿にした黛と急に。 「なんで、なんでよりにもよって黛さんなの?」 「たまたまエヴァーハルトの自伝を読んでいただけの君よりも、翻訳者の孫に惹かれるのは当然だろう。どうせ飲むのなら清三郎の遠縁の清恵の血の方がいい。ヴァンパイアの性だよ」  私は自分の血筋を呪った。愛してくれない両親に愛着などなかった。黛の家系に生まれたと言うだけで、全てを奪うあの女が憎かった。自分の血を全て彼女の血と入れ替えてしまいたかった。 「それに音楽を後世に残すなら、君より歌の上手な清恵と組んだ方が合理的だ。もう君はいらない」  私に歌の才能があれば、もう少し作詞が出来たら、あなたは私を捨てないでくれるの?縋り付いた私の腕をエイミーは振り払った。 「私のことなんて忘れればいい。私も忘れるから」  無理。今更忘れられない。捨てるくらいならどうして優しくしたの。エイミーがいないと生きていけないのに。 「さようなら」  エイミーとはそれっきりだった。
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