愛を望む

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 死んだように高校生活を送った。NEIROをアンインストールして、音楽と無縁の生活を送った。リーベPのアカウントだけはどうしても消せなくて、パスワードをランダムな文字列に変えてログアウトするという何とも中途半端な方法をとった。 「だからさー、マジなんだって。昨日吸血鬼に襲われたんだって! 何で信じねえんだよクソが!」  ある日登校すると、教室でクラスメイトが大声で騒いでいた。少し柄の悪い男子生徒。高校生にもなると誰も人の名前を馬鹿にしたりするような幼稚なことはしない。私は彼に名前を揶揄われるようなことはなかったけれど、彼は同じ中学出身の男子生徒に対しては少し威圧的な物言いをする人だった。 「あー、懐かしい。昔あったよね。吸血鬼伝説」  隣の席の女子に話を振られた。あの頃は学校でエイミー以外の人と話すことはほとんどなかったので噂話は疎かったが、私たちが中学二年生の頃、吸血鬼の都市伝説はこの街に蔓延し、近隣の小中学校では知らない人はいないほど有名な話らしい。  エイミーだ。黛は血を吸わせてくれなかったんだ。ざまあみろ。そのまま誰かに見つかって捕まってしまえばいい。意地悪な考えが頭を支配する。  いっそ、SNSにでも吸血鬼の正体を晒してやろうかとも何度か思った。でも、できなかった。あの子が不幸になれば満足なのかと言うときっとそういうわけじゃない。ただ、私を捨てたことを少しだけ後悔してほしい。それだけだ。  あの子は残酷だ。よりにもよって白木澤先輩が私を振ったのと同じ卒業式の日に、私を捨てた。最悪な形で裏切られても、嫌いになれない。どうして、極悪人に徹してくれないの。どうしてあの日私を一方的に傷つけたくせに、貴女の方が泣きそうな顔をしていたの。
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