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「マリア……?」
呟いていた。マリアの姿は見えない、チェーンソ ーは手放され深海に沈んでいく。群れの所々から、血のような液体が漂ってくる。
嫌な予感。そう、今の僕が抱いているのは嫌な予感だ。
「──マリアっ!」
泳いで、群れに近付こうとするも蛸足に絡みつかれて深海の魔女に引き寄せられてしまう。愛しく抱き締められ、潜水マスクで頬ずりをされる。
「諦めなさい、栞。……彼女は、断罪兵器は確実に死んだわ?」
「──諦める、ははっ。まさか」
まさか、僕の愛しい愛しいヘクセンナハト・マリアが、死んでしまったと魔女は思っているのか?
ならば、深海の魔女は何も分かっていない。
そんな魔女を可哀想に思えて仕方ない、乾いた笑いが出てきて仕方がない。ヘクセンナハト・マリアは、そうそう簡単に死ねないのだから。
「……なに、なにが可笑しいのかしら!?」
「深海の魔女、君はなんにも分かっていないんだね。──彼女、断罪兵器の事を」
「どう言う……「──こう言う事だよぉっ!!!」
弾丸のような群れの中から、なにかが飛び出て深海の魔女の喉を目掛けて喰らいついていた。
「が、あっ!?」
「──そのまま、死ね」
頭だけになったマリアは、魔女の喉を食い千切り吐き捨てる。蛸足から開放された僕は、マリアの頭を抱き寄せていた。
「大丈夫だったか、栞?」
「……大丈夫かは、こっちの台詞だと思うけどね」
「オレは、大丈夫だよ。──だって、不死だからな?」
ケラケラと、頭だけになりながらも笑い続ける少女。
ため息をつき、深海の魔女を見る。彼女は首を押さえて、紫色の瞳でこちらを睨み付けていた。
「──なんで、首だけなのに」
「まぁ、死にゆく者にだけネタバレしてやるよ。断罪兵器が断罪兵器たりうる理由、それは魔女の能力を二つ所有している事に訳があるんだよ」
「はぁ、はぁ……二つの能力?」
「そう、一つは魔女を殺すための能力。──そして、もう一つは死んだとしても何かしらの理由で生き返ったりする能力だよ」
「はは、ははは……なるほどね、それは知らなかったわ。次会う時は、必ず殺してやるわ」
そう言葉を吐き出すと、深海の魔女は泡のようにはじけて消えてしまっていた。それは、恋に破れた人魚姫のように。
「──さて、帰るとするか。てか、頭を撫でるな。くすぐったいだろ?」
マリアの濡れている髪を、優しく撫でていたのを怒られてしまった。しかし、頭しか無い彼女はなすがままにされていたのだ。
「……テメェ、身体が再生したら覚えとけよ?」
「はは、忘れてなかったらね」
無駄口を叩きながら時間を潰していく、魔女領域はその魔女が死んでしまうと崩れていく。
この魔女領域も同じく、空間にヒビが入り砕け崩れ始める。一般人である僕に出来ることはない、なのでマリアを慈しむだけにしよう。
──そして、領域は完全に崩れ去った。
第三話『深海の魔女は底を見渡す・下』へ続く
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