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「さあ、始めましょうっ! 魔女と断罪兵器の殺し合いをっっっ!!!」
「……あぁ、めんどくせー」
しかし、僕の隣でふわりと浮かぶ少女は面倒臭そうにあくびを噛み締めていたのである。
殺し合うことが、三度の飯より大好物のマリアにしては珍しい物言いだ。彼女が殺戮を面倒臭いと言ったのは、『怠惰の魔女』の事件以来であると思う。
「どうしたんだい、マリア?」
「──どうもこうも、眠いまま来てるから気が立ってんだよ。ったく、さっさと殺すぞ」
「あぁ、そうか……」
そう言えば、時間としては夜の11時を超えていたはずだ。マリアはとっくに寝ている時間なのに、無理やり起こされて戦わされているので多少は荒くなっているのだろう。
「……面白くないわねェ、もう少し盛り上がりましょうよ?」
「うるせーな、人を溺死させる位しか能が無い魔女相手に盛り上がられるかよ」
「……ふーん、言ってくれるじゃない。なら見せてあげるわ、私の本気の力をッ!!!」
深海の魔女が叫び声を上げると、周囲を泳いでいた熱帯魚達の姿が異質に変わり始めていく。
熱帯魚に水生昆虫のような生き物が混ざり合い、非常に気持ちの悪い姿をした生命体へと変化していた。熱帯魚のエラから、タガメの爪のようなものが出ていたりする。
「──この子達は、ただの合成生物じゃないのよ。私の魔力と、信者達の生命エネルギーをふんだんに食べさせてあげた特別な個体なのよ!」
目の前の少女は高らかに叫ぶ。異形と化した熱帯魚達は、カチカチと爪を鳴らしながら魔女の言葉に呼応する。それは雑音なオーケストラのようだ。
だけど、だけども、断罪の少女はそんなオーケストラに臆する素振りも見せない。
ただただ、ふわりふわりと浮かびながらあくびを噛み終わると泡とともに言葉を吐き出した。
「……面倒くせぇ。面倒くせぇけど、お前は人を殺して魔女を名乗った。ただそれだけで、オレの仕事は始まるよなぁっ!」
──瞬間、マリアはいやらしく口を歪めて笑ったのだ。
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