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「……さぁて、断罪執行のお時間だぜぇっ!!!」
笑みを浮かべたまま、彼女は自身の人差し指を前歯で噛み千切っていたのである。ゴリゴリと骨を削る音がして、辺りにマリアの指から血が流れ出る。
「──断罪兵器、ヘクセンナハト・マリアの名において。貴様を確実に確殺して、強制的に断罪執行してやるよっ!!!!!」
ペッと右手に吐き出した第一関節までの人差し指は、血に塗れ大きく膨れ上がって変異していく。そして、それは彼女の背丈ほどある大きなチェーンソーと化していた。
……断罪執行、魔女を殺す為だけに与えられる少女達の法を無視した行為。
そんな姿を隣で見ている僕の心臓は、いつの間にか高鳴っていた。少女が自身を傷付けてでも、魔女を殺す武器を生み出す行為に、興奮と神聖さを感じていたのだ。
「……あららぁん? そんな機械をお持ちになっても、大丈夫なのかなぁ。ここは魔女領域とは言え、水の中なんだよぉ? 動かないんじゃない?」
深海の魔女は煽りに煽り散らしていく、自分の魔女領域によほどの自信があるのだろう。潜水マスクの中で、勝ち気な笑みを浮かべているのが目に見える。
「──いいや、動くぜ。なんたって、コイツはオレの身体から出来た断罪兵器だからな!」
マリアは紐を引いてエンジンを掛けると、巨大なチェーンソーは大きく吠えるかのようにエンジン音を鳴らし始めた。そして、チェーンの部分が勢いよく回りだす。
「コイツにガソリンや電気は要らない、だって元々はオレの人差し指から造られた兵器だぜ? ──動かし方は知っている、たとえ水の中でもなぁっ!」
両手に握り締めたチェーンソーを振り回す、それは水を巻き込み回転し泡が吹き出していく。
「……ははん。なら、私の攻撃くらい簡単に防げるわよねぇ!」
深海の魔女は面白くなさそうに、熱帯魚をけしかけてくる。しかし、マリアはそんな異形の化け物達を刻み巻き込み殺していく。
それと同時に、僕達の周りが深い深い黒い蒼に染められていくのだ。
「──今日は珍しくやる気に増してるね、やっぱり怒ってる?」
気になり声を掛けてみる。しかし、少女は迫ってくる熱帯魚を刻み殺しながら、楽しそうに返してきた。
「怒ってねーよ! 逆だ、これほど迄に殺しがいのない眷属を殺せて、楽しーんだよっ!」
「あー、なるほどね」
「……だけど、雑魚を殺していても仕方ねーな。魔女は傷一つ負ってねぇ、目も覚めたし本気を出しますかな?」
マリアは、深海の魔女へと目を向ける。辺り一面が暗く黒い深海のように変化し、水平服の魔女の周りだけがボンヤリと薄く青く輝いている。
「──は、はは? 本気を出す? 私の可愛い眷属達が雑魚? ……はぁぁぁぁぁぁぁ、ハァァァァァァッ!? 絶対、絶対、殺してやる。殺してやるっ!!!」
深海の魔女は、怒り心頭のようであった。
そして、彼女の身体が青から紫色に輝きが変わったのである。まるで羽化するかのように、背中からおどろおどろしい黒い蛸足が伸びてきたのである。
「ははーん、それが本性かよ?」
「黙れ、黙れっ! ……私の愛しい愛しい栞を独占して、生きて帰れると思うなっ!?」
魔女は蛸足を勢いよく伸ばし、マリアの幼い肢体を貫こうとする。が、それは振るわれたチェーンソーによって、全て切り刻まれてしまっていた。
何度も、何度も、蛸足は再生し迫り続けるも、それは少女の断罪兵器によって粉々に消えていく。
「くそ、くそっ、くそがぁっ!!!」
「……おいおい、もう終わりかよ。眷属が雑魚なら、魔女も雑魚なのか?」
先程の仕返しかのように、魔女を煽るマリア。
お互いに少女なので何となく分かるけど、流石に子供のケンカとしか思えないほどに醜い争いだ。
「ぐ、ぅ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「──これで、終わりだぜ。深海の魔女よぉっ!」
そう叫ぶと、彼女は巨大チェーンソーを持ち上げようとする。
「……まだ、まだ終われますかぁぁぁぁっ!?」
瞬間、魔女の言葉とともに、マリアの足下から小魚の群れが突っ込んできていた。それは弾丸のように、少女の体をえぐりついばみ、巻き込んでしまう。
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