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『先生、写真は苦手なんだよ』
『いいじゃん。記念なんだから』
『お? 今日は何かの記念日なのか?』
『違うよー。そうだなー、先生が副担になった記念かな?』
『おいおい。それは今更だなぁ。それを言うならせめて四月だろう』
苦笑いしつつ私たちの中央に納まってくれた六月のあの日。亜沙実は副担記念だなんて言ったけど、私にとっては先生と一緒に写真を撮った記念日になった。そう。私のカレンダーは先生との記念日でいっぱいだ。初めて声を掛けて貰った日、叱られて頭を小突かれた日、助手席に乗せて貰った日、フレンチポップスが好きだって教えてもらった日、二の腕にほくろがあるって知った日……
スマホの中の先生が真っ直ぐにこちらを見つめている。私の周りには居ない大人の男の人。たとえ二回り近く歳が違ってたって、白髪交じりの頭をしてたって、それが先生なの。
——長谷川。
頭の中の声が子宮を擽る。私はそっと人差し指を伸ばし、平らな先生に触れた。
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