先生にも解けない問題

15/28
前へ
/28ページ
次へ
「え? は? ……じ、自慢?」  意表を突かれて声が裏返る。先生は「ああ」とゆっくりと頷いて微笑んだ。どこか誇らしげにも見えるその顔が、大好きなはずのその顔が、なんだか急に憎らしく見えてくる。おかしいな。さっきまでは可愛い顔だったのに。  先生はマスクを直しながら言った。 「長谷川は俺の自慢の生徒」 「自慢って、は、はは……感覚おかしいよ。そもそも担任じゃねぇし」  声が上擦る。笑顔が引き攣る。私が欲しいのはそんな言葉じゃない。 (私がなりたいのは自慢の生徒なんて奴じゃない。自慢の……) 「おかしくなんてないぞ」  先生は首を横に振った。シワだらけの笑顔と優しい声で、私の気持ちになんて全然気付きもしないで、優しくやさしく傷付けてくる。まるでリスカをしたときみたいに、私の身体には浅い傷が増えていく。先生は私に傷があっても治してはくれないし、かといってひと思いに殺してもくれない。  大人で、鈍くて、ずるい先生。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加