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「え? は? ……じ、自慢?」
意表を突かれて声が裏返る。先生は「ああ」とゆっくりと頷いて微笑んだ。どこか誇らしげにも見えるその顔が、大好きなはずのその顔が、なんだか急に憎らしく見えてくる。おかしいな。さっきまでは可愛い顔だったのに。
先生はマスクを直しながら言った。
「長谷川は俺の自慢の生徒」
「自慢って、は、はは……感覚おかしいよ。そもそも担任じゃねぇし」
声が上擦る。笑顔が引き攣る。私が欲しいのはそんな言葉じゃない。
(私がなりたいのは自慢の生徒なんて奴じゃない。自慢の……)
「おかしくなんてないぞ」
先生は首を横に振った。シワだらけの笑顔と優しい声で、私の気持ちになんて全然気付きもしないで、優しくやさしく傷付けてくる。まるでリスカをしたときみたいに、私の身体には浅い傷が増えていく。先生は私に傷があっても治してはくれないし、かといってひと思いに殺してもくれない。
大人で、鈍くて、ずるい先生。
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