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「長谷川みたいな生徒がいてくれて先生は幸せなんだよ。副担だって教師なんだから。教師冥利に尽きるってもんだよ」
先生はいつもの笑顔のまま立ち上がった。あっという間に遠くなった顔を見上げる。これが私と先生の距離。
「今日は先生送ってやれないから、遅くならないうちに帰るんだぞ」
「いいもん。あの軽はなめられるから、私の方がお断り」
「言ってくれるじゃないか、あはは。じゃあな」
ひらりと片手を上げた先生は、ブラバンの音と共に暑い廊下に消えて行った。「お断り」だなんて本心とは真逆の言葉で、勝手に傷を増やしている。馬鹿だ。
「あーあ。シャーペン、買い替えようかな」
小さく呟いてノートを閉じた。日焼け止めの混じった汗が目に滲んで、ぴりりと沁みた。
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