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「英美、あれ出した?」
「あれって?」
「進路調査票。何書けば良いか分かんない。マジ面倒」
亜沙実は鞄を肩に引っ掛けながら、私の席の横までやって来た。
「亜沙実は就職じゃないの?」
「正直勉強も働くのも嫌だけどさー、親は進学しろって言うわけ。このままJKで良いんだけど私」
ホームルームが終わった教室は部活に行く奴らの真面目な会話と、私らみたいな帰宅部の浮ついた会話が入り混じってざわざわとうるさい。今まで抑え込まれていたエネルギーを解放するかのように開け放たれたドアからは、容赦なく熱風が入り込んできている。廊下にもエアコンがある私立高校が羨ましい。
私は額の汗を手の甲で押さえながら返事をした。
「私はすぐにでも大人になりたいけどな」
(先生に釣り合う女になりたいから)
白紙の調査票は机の中だ。私の馬鹿な頭では就職一択なのは分かってる。学費とかでこれ以上お母さんに頼りたくないっていうのもある。
でも、もし、万が一……ううん、もっともっと低い確率でも、進学っていう道があるのなら。
(私も先生になって……)
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