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じゃ、と手を振って亜沙実は出て行った。私は机に頬杖を付きながら、鞄からスマホを取り出した。脇にある電源ボタンを押せば朝検索した履歴が残っている。『T大学教育学部』。先生の通ってた大学。偏差値六十二って意味分かんないけど。
(大学生のときから可愛かったのかな)
今よりもずっと若い先生を想像する。もっさりとしたチェックのシャツを着ちゃったり、下手くそなのに友達とゲーセンに行ってお小遣いをパーにしちゃったり、バーベキューして自分だけ煙に巻かれたり……きっとそんな感じだったに違いない。写真を見せて貰ったこともないけど、なんとなく想像できる。可愛いかわいい先生。
「ジュ、ジュ、ジュテーム……」
小さく呟きながら進路調査票を取り出した。第一から第三希望までの欄がある。この一つにT大学教育学部と書けたらどれだけ良いだろう。
——T大か? 良いところだよ。
(そんな風に勧めてくれる?)
——長谷川。頑張ればお前にだって入れるよ。だから一緒に頑張ろう、な。
(そんな風に励ましてくれる?)
——長谷川は自慢の生徒、いや彼女だよ。
(あのしわくちゃな笑顔で言ってくれる?)
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