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(私のことも褒めて欲しいな)
そわそわしつつ、でもそんな素振りは見せないように細心の注意を払って、シャーペンを取り出した。今日は軸がオレンジのやつ。少しでも勉強が捗るように……っても、色変えた位で捗ったら苦労はしないんだけど。
「ねえねえ、先生」
女子の一人が先生に近付いた。待って、その言い方はちょっと馴れ馴れしいんじゃないの。
先生は「うん?」と首を傾げて、その子の顔を見下ろした。
「聞きましたよ。先生辞めちゃうんですって?」
(え?)
手からシャーペンが転がり落ちて、ノートに斜めの線が伸びた。先生は目をぱちぱちと瞬かせている。
「何だ。もう知ってるのか」
「西田先生に聞きましたー。多分ほとんどの生徒が知ってるんじゃないですか。ねぇ! 長谷川さんも知ってたよね?」
その子がこちらを向いて私に同意を求めてくる。
「……う、うん」
勢いに釣られて私は曖昧に頷いた。すると先生は空いている手で首の後ろを掻く。
「参ったな。長谷川も知ってるのか。西田先生はおしゃべりだなぁ」
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