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「その歳までずっと一人だったから、そのままずっと独身を貫くのかなって思ってましたー。でもよく決断しましたね。婿入りするんですよね?」
「ああ。向こうの家、それなりに老舗の和菓子屋でね。お義父さんの代で終わらせるには勿体なくて」
「青森でしたっけ?」
「そう。吉田たちも卒業したら買いに来てくれよ」
「やだぁ、先生。先生の方がお菓子送ってくださいよ」
「ははは。さみしいこと言うなよ」
先生の声と彼女たちの声がだんだんと小さくなっていく。ノートを横切る線がじわじわとゆがみ、罫線の上を泳ぎ出す。泣くな、泣くな、泣くな。
私は芯が出たままのシャーペンと、解けない数式と、泳ぐ線すべてをひっくるめてノートを閉じた。
「お、長谷川。お前も図書室か? やっぱり涼しい場所が良いだろう?」
先生がこちらに気付いて声を掛けてくる。私は首を横に振った。伸ばしている前髪が目に掛かったけれどそのままにして、髪と髪の間から図書館女子に囲まれた先生を見る。
いつもと変わらない笑顔の先生。
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