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「気にしなきゃダメなんだって」
イライラとした気持ちを、ただ隣に座っただけの先生にぶつける。
「言わなかったら付け上がるだけだよ。先生はさー、もっと感情を剥き出しにした方が良いよ」
シールをカリカリやりながら正面を向いた。田んぼの間を突っ切る国道に滲んだテールランプの赤が点々と続いている。シャーシャーとタイヤが水を切る音とカクカクと単調に響くワイパーの音、ジュジュジュと意味の分からないフランス語。その三つが何とも言えない絶妙なハーモニーを奏でている。いつもと違う、ちょっとだけ特別な雨の夜。
私は大きく息を吸い込んで、さっきよりも大きな声を出した。
「ムカついたときはムカつくーとか、めっちゃ嬉しいときは……んー、そうだなー。何か馬鹿騒ぎするとか」
「くくっ。何か馬鹿騒ぎって何だ?」
「んもう。馬鹿騒ぎは馬鹿騒ぎだよ」
私はスカートに叩き付けるようにしてスマホを置いた。プリーツがよれて、膝よりもずっと上にまでスカートがたくし上がる。それでも先生は脚の方を見ようとはしない。それどころか何事もなかったかのように話を続ける。
「長谷川。考えてもみろ。勉強を教わるのに馬鹿騒ぎするような先生は嫌だろう?」
「分かんない。先生が騒いでるの見たことないもん」
「それもそうか。ははは。まあ、長谷川も大人になれば分かるよ」
先生は笑い声の余韻を残したまま、また運転に戻ってしまった。
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