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先生の匂いがするシートに雨の匂いが混ざっている。
そう。この車は決して私を受け入れてくれた訳じゃない。一時間に二本しかない路線バスに乗り遅れ、びしょ濡れで途方にくれていたかわいそうな生徒を乗せているってだけだ。同じようにかわいそうな人がいれば、私じゃなくても先生は同じことをするだろう。だからこの車は先生だけのプライベート空間ってことに変わりは無いし、居ても居なくても変わらない私は限りなく空気なの。
(どうしたら空気を卒業できる?)
ぼんやりと考えていると、先生が「明日も雨かな?」と独り言みたいに呟いた。
「分かんない」
「そうか」
天気予報なんて見ていない。朝、雨が降ってたら傘を持って出掛けるけれど、晴れていれば傘なんて持たない。降ったら残念って思うだけ。
「晴れると良いな」
「……そだね」
(晴れてたら乗せてもらないから、私としては雨の方が嬉しいんだけど)
心から同意できない会話に唇を噛み視線を落とせば、毎日せっせと磨いている丸い膝と太ももが場違いに白く光っていた。そんな白い脚が何だか虚しくて、私は無言で持ち上がっているスカートを直した。
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