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「本当に先生、お母さんに挨拶しなくていいのか?」
「大丈夫だよ。ちゃんと言うし」
「そうか。長谷川、明日はちゃんと早めに帰れよ。いつも先生が送ってやれる訳じゃないんだからな」
「分かってるって」
先生は助手席のウインドウを閉め、小さく片手を上げてから車を発進させた。何の変哲も無い白い軽自動車が水たまりの上を走っていく。赤いテールランプに混じってオレンジ色のウインカーが点滅した後、小さな後ろ姿はブロック塀の角に消えていった。
「ジョン、ただいま」
玄関先で先生に借りたビニール傘を閉じる。ジョンはもう寝ているのか、犬小屋は静まりかえったままだ。もう十三歳のおじいちゃん犬だからそもそも番犬にはならないんだけど。
「ただいま」
テレビの音に混じって「おかえり」とお母さんの声がする。
「ご飯できてるから食べなさい。のびちゃうから」
(のびちゃうってことは今日もそうめんか)
別にそうめんが嫌いな訳じゃない。だけど流石に毎日だと飽きる。「これを入れれば違う料理みたいでしょ。一石二鳥よ」と笑顔で薬味を沢山追加されても、みょうがや大葉くらいじゃそうそう味は変わらない。そうめんはどこまで行ってもそうめんだ。
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