#1064日後に別れるふたり

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 そこで、俺は十四年ぶりに日本へ帰ってきたのだ。実家でダラダラと静養中。当然、両親の顔も憶えちゃいないけれど。 「ただ、最近になって思い出したことがひとつだけあって。体育館の記憶」 「体育館って、あのスポーツをする場所の」 「そう。そこで、女の子と話している光景を思い出して」  高校時代の記憶なのかもしれない。女の子は、ブレザーの制服を着ている。話の内容までは思い出せないが、体育館の風景はありありと脳裏に浮かんでいる。 「様々なラインがひかれた木製の床、鉄骨がむき出しの天井、整然と並んだ照明、二階のギャラリー。大きな窓があって、そこからは海岸に沈む夕日が見えている。誰もいない、大きな空間の中で女の子と二人きり、そんな記憶です」  店主はうなづきながら、ペンを差し出した。 「記憶を戻すことはできませんが、その体育館のある場所は探せるかもしれません。できるだけくわしく書いてください。この、余白のところにでも」
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