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うるさいほど賑やか
佐々木ノリコは中学2年生。家族は父、母、弟がいた。
いた。というのは、3人ともノリコが修学旅行に行っている間に、買い物に行った先で、運悪く逆走行してきたトラックとぶつかって亡くなったから。
でも、今の世の中、そのくらいの事ではノリコが施設に行ったりすることはない。
修学旅行から帰って、家族が亡くなったと知らされたノリコの元にはすぐに代わりの家族が送られてきた。
それも、一人ずつ
「ただいま。」
を言って帰って来たのだ。みんな生きている時と同じ顔で、同じ声で。
ノリコもそれは知らされてはいた。今の世の中はすべての家にセンサーがつけられ、生前の人たちの情報が集められている。
そして、生前の人と何ら変わらない性格を持ったAIロボットが送られてくるようになっているから。孤児院や、乳児院なんてない。
どんなにこっそり子供を産んで、捨ててしまおうと思っても、どこにでもあるセンサーが、逮捕されてしまって、子育て不可のお母さんの代わりにその赤ん坊を育てるためのAIロボットを送るから。
でも、このシステムには不備があった。
そもそも子供をこっそり生むお母さん、母性がないのにその人と何ら変わらない性格のAIロボットを送っても、その赤ちゃんは結局幸せに離れない。
アシモフのロボット3原則は守られているので、赤ちゃんがロボットに殺されたり危害を加えられるようなことはないが、優しくされることもない。
ノリコの家はいたって普通の家族だったはずだが、やはり不備があった。
センサーも国がいくつも無償でつけてくれるものではないので、大抵の家は家族が集まるリビングに一つつけっれているだけだ。一つだけは国が無償でつけてくれるから。
ノリコの家族は皆、比較的自分だけでいると静かな家族だったのだが、その分、リビングに集まった時には学校の話やお父さんの会社の話などで、皆よく笑って、にぎやかに食卓を囲んでいたのだ。
そういうわけで、一人ずつ帰って来たロボットは、みんなとても陽気で、常に話題を提供し、大きな声で笑いあう。
リビングにいる時はいいのだが、各自一人になってもずっとその調子でにぎやかだ。
ノリコが静かに一人で勉強したいときでも、ロボットはみんな一人乗り突っ込みをして、陽気に笑っている。一日中だ。
これはちょっとたまったものではない。
一応市役所に苦情を申し出てはみたものの、市役所の受付もAIなので、生きている時にとれた情報しかAIには入っておりませんので。と言われてしまう。
ノリコは次第にうつ状態になって、笑う事などできなくなってしまった。
そうなると、今度はセンサーが異常を察知して、ノリコは病院に送られることになる。
医者もAIだ。
「生活に適応できない適応障害ですな。」
と、大元の所をすっ飛ばした診断が出される。
そして、おちつくまで入院させられることになる。
そんなわけで、孤児院や乳児院はないが、不適格な性格を刷り込まれたロボットのおかげで、結局人間が適応できず、病院はいつも一杯。
どんどん病院が増えて、普通の人間は病院で過ごすことになる。
国会では、性格情報収集のセンサーを、各個人の性格をしっかり情報収集できるように一人に一つ無償で貸与するように今日も論争が繰り広げられている。
今の所、AI国会議員と人間の国会議員の人数比は五分五分なので、このチャンスを逃したら、人間は病院以外では暮らせなくなってしまうだろう。
人間の国会議員には頑張ってほしいものである。
【了】
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