都忘れが散るのなら

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 私が高校から帰ると、郵便ポストに手紙が入っていた。差出人は親友の美耶子で、私は胸を弾ませながら封筒を握る。  彼女は中学からの同級生で、二週間前にオカルトライターのお父さんの都合に合わせてとある村に引っ越した。何でもその村は辺鄙な土地で、携帯もネットも繋がらない孤立した場所らしい。  私なら絶対に行かないけど、好奇心旺盛なお父さん似の彼女は、ワクワクした様子で『とりま着いたら手紙書くわ』と、私にメールを送ってきたぐらい肝が据わっている。 「美耶子、村に着いたんだぁ」  自室で鼻歌混じりに封筒を開けた私は、この年で鼻歌なんて少し子供じみている気もするけれど、文才に恵まれている美耶子がどんな体験をしたのかワクワクして中を覗いた。  しかし、取り出した中身は私の期待を大きく外れ、私は「あれ……何コレ?」と訝しげな声を上げる。中にあったのは二つ折りにされた一枚の手紙と、暫く会えなくなる彼女の名前とミヤコワスレの花を掛けて私が買った栞だった。  一瞬で不機嫌になった私は口を尖らせながら手紙を開くと、そこには今まで見た美耶子の字の中で一番荒々しい筆跡が並んでいる。 『本当にごめんなさい。でも、一人では死にたくない』 ──えっ……?  唐突過ぎて見事に思考が停止した私は新手の悪戯かと考えるも、見慣れた彼女の筆跡に間違いはない。私は封筒の書かれた住所を確認してスマホで住所を検索すると、該当したのはマイナーなオカルト掲示板のみだった。 >>あの村って存在してるん? >>らしいよ なんか、名前見ただけで呪われるやつでしょw >>じゃあこのサイトメンバー死亡確定w  サイトの最終更新日は、その会話が最後。私は背筋がゾッと凍る感覚に肩を振るわせた。 ──嘘だよね……美耶子?  私が慌てて目を閉じ耳を塞ぐと、その振動で手紙が床に落ちる。 「一人は嫌だよ」  聞こえないはずの悍ましい美耶子の声が鼓膜のすぐ隣で響き、私はサイトの戯言を信じざるを得なかった。
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