1 たった一人の友だち

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 名前の順で出席の点呼が始まる。田中 亘(たなかわたる)という僕の名前はちょうどクラスの真ん中くらい。昨日と同じように、橋本先生が僕の名前を呼び、僕はハイと返事をする。今日、家を出てから初めて放つ言葉。それは昨日も一昨日もその前からずっと、学校での僕の最初の発声は、朝の会での点呼に対する返事だ。  授業中に指されることがなければ、朝の会の返事以外、一言も話さずに下校する日も珍しくはない。  去年、父親の転勤でこの町に越してきて、この学校に転入してからずっと僕には友だちはいない。原因はなんだか分からない。いじめられているわけではないけれど、僕はこの学校では空気のような、幽霊のような、みんなには見えていない存在なのかもしれない。たまに、僕は本当は死んでいて、他の人には見えていないんじゃないかと思うことがある。  もともと人見知りで、自分から積極的に話しかけていけるような性格ではないから、友だちができづらいだけなんだろうけれど。  そんな一人ぼっちの日が続く中、いつ始まったのか今では覚えていないけれど、朝登校すると僕の机にメッセージが書かれるようになった。最初は、おはようとかそんな言葉だったと思う。なんとはなしに、おはよう、と返事を書いておいたら、翌日、昨日の算数のテストどうだった?、と机に新しいメッセージが書かれていた。  そういったやり取りがもう一ヶ月くらい続いている。授業の話とか、休み時間の話とかが書かれていることもあるので、このクラスの誰かなんだとは思うけれど、いまだに相手が誰なのか分かっていない。
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