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十四話
お茶会当日、クラウスはルーフィナを迎えに別邸へと向かった。一旦馬車を降り、屋敷の中まで入ると既に彼女が支度を整え待っていた。クラウスに気付いたルーフィナは遠慮がちに近付いて来ると挨拶をしてくるが思わず目を見張る。彼女は普段とは違い随分と粧し込んでおり、舞踏会で見掛けた時ともまた印象が違った。
茶を基調としたドレスはフリルやレースがふんだんに施され、ボリュームのあるふんわりとしたスカートからはチラリと足が覗いている。少し子供っぽいデザインなのにも関わらず、何故か胸元は惜しげもなく出されている。何というかアンバランスな感じがーー。
そこまで考えた所でクラウスは我に返った。
(僕は一体何を……あり得ないだろう)
そう思いながらも、一気に熱が顔に集まるのを感じ慌てて手で隠すと彼女に背を向けた。
「あの……もしかして、おかしいですか?」
「別に。でもまあ、年相応といった所だね」
「そうですか……」
「ほら、行くよ」
誤魔化す様に適当に返して、クラウスは早々に馬車に乗り込んだ。
クラウスは向かい側に座っているルーフィナを盗み見ながら、以前黒い毛玉に噛まれた時の事を思い出す。
出血はしていなかったが割と大きなアザになっていたので取り敢えず隠す為に暫くの間は包帯を巻いたままにしていた。そんな時、例の如くアルベールがやって来た。ただその日は珍しくラウレンツも一緒だった。
『その手、どうしたんだ?』
目敏いアルベールが包帯している事に気が付くと指摘してくる。だが余計な詮索をされたくないので適当に誤魔化した。まさか妻の飼っている犬に噛まれたなどとは言えない……。もしそんな事を言えば大笑いしながら暫く話のネタにされるに決まっている。
『それで今日はラウレンツまでどうしたの?』
面倒だと思い、さっさと要件を聞いて帰らせる事にする。
『実は妻が珍しいお茶を手に入れたので、お茶会をしたいと言い出しまして。来月初旬にでも開こうと思っているんですが、是非貴方にも参加して頂きたいんですよ』
(珍しいお茶ね……)
『ただ希少なお茶で数はそれ程入手出来なかったので、今回はごく親しい人間だけしか招待は致しません。ですから気兼ねはしないと思いますよ。あぁそれでですね、うちの妻が新調したばかりのドレスも……』
お茶会の打診だったが、話は脱線し彼の妻の惚気話に変わった。ラウレンツは普段は生真面目で気遣いも出来るが、妻の事になると周りが見えなくなる。何処かで制止しなければ延々と終わらないのでクラウスは話題を戻した。
『それで当日は、他に誰が来るの?』
『貴方とアルベール、後はカトリーヌとレオン君です』
「侯爵様」
「……何?」
暫し意識を飛ばしていたが彼女の声にクラウスは我に返った。すると少し困った顔をして此方を見ているルーフィナと目が合う。
「到着したみたいです」
いつの間にか馬車は止まっていた。カーテンをずらし窓の外を確認すると、確かにドーファン家の屋敷前だった。
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