十二話

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十二話

「え……」  また来てる……。  ルーフィナが校舎を出るとクラウスが待っていた。今週で三回目だ。  彼がにルーフィナを迎えに来た日から半月程経つが、こうやって迎えに来る様になってしまった。因みに先週も三回来たので初日を合わせて今日で累計七回目となる。 「あれ、ルーフィナの旦那また来てるね」    呑気にリュカはそう言って欠伸をする。七回目ともなると物珍しさもなくなり、興味がなさそうだ。   「最近よくいらっしゃるんですね! もしかしてご一緒に住み始めたんですか?」 「いえ、そうではないんですけど……」  期待に満ちた目でベアトリスが見てくるが、正直ルーフィナも何故クラウスがこうも頻繁に迎えに来るのか分からない。先日やんわりと「お忙しい侯爵様の手を煩わせるのは申し訳ありませんので……」と言ってみたが「物のついでだから君が気にする必要はない」と言われてしまった。結局何のついでなのかは未だに謎だ。 「ルーフィナ、帰るよ」 「はい……。では、ご機嫌よう」  微笑みながらルーフィナに手を差し出す彼に苦笑しつつその手を取ると、ベアトリス達に挨拶をする。だが一人だけ反応がない。 「テオフィル様?」 「え、あぁ、すまない……また、来週にね」  最近テオフィルの様子がおかしい。話し掛けても何時も上の空で元気もない。リュカやベアトリスも心配しており、先日リュカが理由を聞いてみたが「何でもない」の一点張りだった。一体何があったのだろうか……。 ワフっ! 「……」  ルーフィナは向かい側に座る彼をチラリと盗み見る。  応接間のソファーに腰掛け優雅にお茶を啜るクラウスから少し離れた場所でショコラが彼をずっと見張っている……。  以前彼に噛み付いてしまった時にショコラを叱ったので次からはクラウスに噛み付く事はなくなったが、彼が屋敷に滞在中は常にこうやって監視する様になった。  そんな異様な空気にも関わらず彼は全く気にする素振りは見せない。やはり侯爵様となると余裕がある。ただルーフィナは先日気付いてしまった……実はクラウスがショコラを視界に入らない様にしていると。  彼は迎えに来てくれた後は必ず屋敷に寄って帰る。無論ルーフィナに拒否権はないので受け入れる他ない。毎回特別話す事も何をする訳でもなく彼はこうやって優雅にお茶を飲んでは帰るだけで、正直何をしたいのかさっぱりだ。  彼の手元を見れば包帯はもうない。つい先日ようやく外す事が出来た。ショコラに噛まれてから暫くの間は包帯を巻いたままで、来る度にルーフィナがそれを巻き直していた。 『侯爵様、包帯が解れてしまってます。巻き直し致しますか?』 『あぁ……』  一度目は失敗してしまったので、今度はそうならない様に侍女に声を掛けるとクラウスから「君で構わない」と制止され「ですが……」と渋ると睨まれたので仕方なくルーフィナがやっていた。それにしても包帯ってこんなによく解けてしまうものなんだなと初めて知った。朝晩と巻き直している筈なのに……。 「聞いてるのかい」 「え……はい、すみません、聞いていませんでした……」  ぼうっとしていたら怒られた……。  ルーフィナが項垂れた瞬間部屋にドスドスと足音が響きショコラが近付いて来た。そして何を思ったかクラウスの座るソファーへとダイブした。 「あの……大丈夫ですか?」 「へ、平気だ、問題……ないっ」  明らかに無理をしている。  クラウスはルーフィナより頭一個分背も高く、細身だが男性だからかやはりそれなりに筋肉もついている。だがそれでもショコラに上に乗られたら重いと思う。ショコラがルーフィナに抱き付く時は、潰さない様にしてくれているらしく大して体重は掛けてこない。だが今は見るからに全体重を掛けられている……。 「それで、話の続きだけどっ……僕の、友人が今度お茶会を、開くらしくて、ね……参加する様に……」 「え……私が、ですか?」 「君以外っ、いないだろう……っ」  息を切らしながらショコラからの重圧に耐えているクラウスを見て、いけないと思いつつ笑いそうになってしまう。 「何? もしかして問題でも、あるのかな」 「い、いえ、そんな事は……ないです?」  つい本音が出そうになりクラウスから睨まれるが、今日は全然怖くない。何故ならショコラに押し潰されルーフィナより姿勢が低くなり上目遣いになっているからだ。 「くっ……重っ」 「やはり重いですか?」 「くない! これくらい、何の問題もないよっ。とに、かく、来月のお茶会はっヴァノ侯爵夫人として、出席をして貰うっ」  普段凛として洗練された佇まいの彼の髪も服も乱れに乱れ、少し疲れた様子で馬車に乗り込み帰って行った。ルーフィナはそんなクラウスを見送った。 「侯爵様、大丈夫かな……」 ワフっ‼︎ 「ショコラ、余り侯爵様に意地悪しちゃダメよ?」 ワフ……。 「ふふ」
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