オンライン手術

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オンライン手術

 私は自分のオフィスでモニターを見つめていた。その画面にはここから千キロは離れている、三方島町立病院の手術室内部が映っている。手術台ではOPCAB(心拍拍動下冠動脈バイパス)LITA(左内胸動脈)LAD(左前下行枝)の手術が始まる所だった。  執刀医の声が聴こえる。 「それでは秋月先生、始めます」  モニターの向こうに居るのは、このオンライン手術の実際の執刀を担当する田所先生だ。彼は私よりも十歳年上だけど、手術の執刀数では私の足元にも及ばない。  私はこのオンライン手術により、過疎地や離島の病院に居る執刀経験の少ない医師にオンラインで指導(コーチング)しながら難しい心臓手術を成功に導いていた。  田所先生と同じ手術視野を獲得するためVRゴーグルを装着する。 「田所先生、それでは始めて下さい」  彼は電動鋸(スターナルソー)での胸骨切断を開始した。 「田所先生、開胸器は胸骨下端に掛けると心尖部の脱転が容易になります」 「はい、こうでしょうか?」 「そうです。そして吻合部を確認しながらLITA(左内胸動脈)を離断します」  田所先生の経験は浅いけど、指示に対する動き(アクション)がスムーズで適切だ。彼は拍動している吻合部をスタビライザーで固定した。
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