黄泉戸喫 [読みきり]

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 黄泉戸喫(よもつへぐい)……  それは「あの世のものを食べると、この世に戻れなくなる」というもの。生きたままあの世に行けても、黄泉のものを食べればそのまま黄泉の国の住人となる……。  その手記を手に入れたのは偶然だった。サークルの合宿で来た山奥の河原で拾ったノートに書いてあったのだ。 「滲んてて読みにくいけど、この上流に隠れ里があって、あの世に通じる洞穴があるんだってさ」  そろそろ退屈しはじめた俺たち三人は、探検がてら上流に向かうと果たして村らしきものがあった。 「変だな、誰もいないぞ」  どうも廃村らしい。おっかなびっくりだが手記にあった洞穴を探すと村のはずれにあった。ライトで照らし、すぐに行き止まりになっているのを確認して中に入る。ひんやりしていい気持ちだ。 「なんてこと無い岩だな。所詮は伝説か」  ライトを照らしている俺以外は岩壁を触って確かめたが、別段変わったことは無いのでがっかりし帰ることにした。しかし途中で二人が苦しみはじめる。 「や、やばい……喰われる、支配される……」 一人がそう言って倒れると、あっという間に全身から茸が生える。 「洞窟の菌床に触ると、はやく逃げろ」  もう一人もそう言うと倒れて茸まみれとなった。  俺は走って逃げた。この村に誰も居ないのはあの茸にやられたのだろう、ここは危険だ、逃げなくては。  しかし俺も次第に支配され始めているのに気がついた。バカな、何も触ってないぞ──そして気がついた、茸は胞子を出すことを。おそらくそれを吸ってしまったのだろうと。  川原に着くと最後の意識をふりしぼり、この村に近づくなというメッセージを手帳に書き、喰われながらも防水を施して流した。  やった、やったぞ、これで────。
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