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そのうち満足したのか、高橋はリップをポーチにしまった。ポーチ、というものを使うのも翔にとってはびっくりだ。それも女の子が化粧品や生理用品を入れるために使うものだ。黒一色のシンプルなポーチで、百均あたりでも入手できそうな代物だったが、同い年の男が持つものではない。
高橋がこちらを向いた。
目が合ってしまった。
見られているとは思っていなかったのだろう、向こうも硬直した。翔と一歩分距離を置いたところで立ち止まった。
二人は沈黙して見つめ合ってしまった。時間にしたらものの数秒のことだっただろうが、翔にはとても長い時間のように思われた。
「見た?」
高橋が震える声で言った。翔は弾かれたように頷いた。
「見た」
「何してんの?」
「変かな」
翔は少し戸惑った。
ただ、ただ、それは、同い年の男子がすべきことではない。
「オレ的にはナシかな」
これでもそれなりに言葉を選んだつもりだった。
しかし高橋は翔を突き飛ばすと猛烈な勢いで階段を駆け降りていった。
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