0人が本棚に入れています
本棚に追加
第1話 2019年9月、ぽぽと高橋冬彦が付き合い始めたことを知った。
あれは二〇一九年九月のことだった。
あの年、平成が終わって令和という時代が始まった。大人たちは改元に熱狂していたが、翔は部活のことで頭がいっぱいだった。
当時翔は野球少年だった。甲子園のことしか考えていなかった。それを、声が大きくて人権にうるさい人たちが、灼熱の真夏に遮るもののない球場で運動させるなんて可哀想だ、高校生の青春を搾取し見世物にしている、などと言う。翔は曽祖父の代から四代続く球児の家系で、野球部の夏とは戦前からずっとそういうものだと思っていたので、余計なお世話だった。とはいえ翔が進学した高校の野球部は弱小で地区大会すら一勝できるかどうかだったから、いらぬ心配だった気もしなくもない。
野球部は弱小だったが、皮肉なことに、それを応援する吹奏楽部とチアリーディング部は強かった。特にチア部は田舎ではそもそも存在が珍しいこともあって地元メディアから注目されていた。
最初のコメントを投稿しよう!