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「それ行くぞ!」
ジェットドローンを手動操縦に切り替え、カイトが山神を追いたてる。
山神らしき『発熱源』もこれに気付いたらしく、山奥に逃げ込もうと走り出す。
「そうはさせん」
速さに勝るドローンで先回りし、何かのボタン押す。すると。
「あっ! 山神が方向を変えた?!」
突然、山神が逆方向に走り出した。
「火薬を散布したのさ。アオイに頼んで、ゲンタさんの弾薬からくすねておいたんだ。ヤツは火薬の臭いを嫌うんだろ?」
「へ? 弾薬? ああ! 弾薬箱の鍵 がいつの間にか開けられとる!」
慌てるゲンタにカイトは知らん顔だ。
「プロストーカーのアオイに簡単な南京錠なぞ通用するものか。それより見ろ、遂に山神を林道まで追いたてたぞ。ひひひ! チェックメイトだ」
《まさか!》
アオイがモニターの向こうから悲鳴を上げる。
《あたしの大事なジェットドローンの『カイト様1号』に突撃をさせる気ですかぁ!》
「僕の名前を勝手につけるな! だがその通りだ。なにしろアレには燃料の軽油が満載されているからなぁ!」
「山火事が起きるでよ!」
「だから消防を呼べと言ったろう?!」
ドローンのカメラが逃げる山神に猛スピードで追い付いていく。
「アオイさんの傑作機を潰す気か?!」
「タクミ、君の依頼とあれば僕は何だって捨てる覚悟だ!」
瞬間。
《ぎゃああぁぁ!》
アオイの絶叫とともに、画面が真っ暗になった。
「当たっただか?!」
ゲンタが急いで外を見ると、遥か山の向こうで火柱が赤々と立ち上っている。
「しょ、消防ヘリを! 早よ消さんと山火事に!」
スマホに向かってゲンタが大声で叫んでいだ。
その後、火だるまになった山神はそれでもなお抵抗を続け、猟友会によるライフル弾を10発以上受けてやっと息絶えたという。火災も、消防ヘリが迅速に動けたのが幸いして大事には至らなかった。
「凄いもんで、こんな大きな羆は初めて見るですわ」
体長3メートルをゆうに越える巨体にゲンタも眼を丸くする。警察のヘリに同乗してきたタクミとカイトも、『成果』をその目で確かめた。
《びぇぇぇ! あたしの『カイト様1号』がぁ!》
バラバラになった愛機に、アオイが号泣している。
「まったくだ。いくら何でもやり過ぎだろうが。アオイさん、こんなヤツはさっさと見切りをつけて……」
タクミがやれやれと首を横に振るが。
《今週の献立、全部シイタケ入りにしてやるぅ!》
「シイタケだと? 冗談じゃない! そんな悪行を許してたまるものか! ああタクミ、部下が英雄であるべき僕を虐めるんだ。こんな僕を慰めてくれるのは君しかいない!」
「こら! どさくさ紛れに抱き着こうとするな! 私に抱き着いていいのはアオイさんだけだ!」
……ぎゃあぎゃあと終わりなく続く、この不毛な喧嘩に。
「はぁ、あれが『AIは混沌』ちゅうやつやろか」
ゲンタが深く、ため息をついた。
完
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